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大学卒業後、フリーター生活を経て数年。私は苦労の末に念願叶ってプロの推理作家として文壇デビューした。
しかし、早くもネタギレで行き詰ってしまった。
ある日、株式会社エブリスタの編集室にて。
「おやおや祭人センセ。『月刊エブリスタ』の人気投票、今月もセンセの作品が最下位よ。デビューして一年足らずで早くも潮時かしらぁ?」
髭面の編集長が、オネエ言葉で私を叱咤した。最近どうも人気がふるわない私は、編集長から直々に呼び出しをくらっていたのだ。
「釜田編集長、心配後無用です。なぜなら私には隠し玉がありますから」
私は意気揚々で、あの隠し玉――大学時代に考案した例の密室トリックが書かれた渾身の原稿用紙をデンと編集長のデスクに置いた。
そう、私の大学時代の理系の知識をふんだんに盛り込んだ、夢と希望と情熱の結晶だ。理系ミステリの先駆者である森先生や東野敬語先生も舌を巻くその論理は、今もけっして色褪せることはない。
「ふーん、表題は『絶対に破れない密室』。大きく出たわね。その言葉に嘘偽りは……男に二言はないわよね、セ、ン、セ?」
編集長は手に持っていたペンの先端を私の鼻先に向けながら、眉をひそめて睨みつけた。
口元には薄ら笑いを浮かべている。まったく失礼極まりない。無礼千万にも程がある。好きで入った世界とはいえ、正直こんな無体な扱いは、もううんざりだ。
「もちろんです。こんなド底辺の私とはいえ、まがりなりにも推理作家の端くれ。神様仏様エラリークイーン様、つまりは本格推理の神に誓って、私の発言に虚偽はありません」
「おやまあ、大した自信だこと。センセがそこまで言うのなら――どれどれ、お手並み拝見させてもらおうかしらん」
編集長は私の渾身の力作を無造作に掴み取り、パラパラと頁をめくりはじめた。
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