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自覚
その「不思議な力」を自覚したのは、あたしが八歳のときだった。
セミの鳴き声響く、暑い夏の日だった。
あれは確か、終業式前日。
学校帰りに通る公園で、あたしはいつものように仲良しグループのメンバーと一緒に遊んでいた。
仲良しグループの中には、その頃のあたしが一番好きな男子も混ざっていた。大人になった今では名前も思い出せないけれど、当時のあたしにとって、彼は憧れの存在だった。
そんな彼が、鬼ごっこの最中にジャングルジムから落ちて大ケガを負ってしまう。
たくさん血が出て、左肘からは骨が見えていた。当然だけど、彼は泣き叫んだ。あたしは咄嗟に、助けを呼ばなきゃ、と思った。でも、こんなときに限って、公園にはあたし達以外誰もいなかった。
彼は、痛みに苦しんで泣いていた。他の友達は、どうしていいかわからず泣いていた。どうすることもできないとわかってーーあたしも泣いた。
あたしが鬼で、彼を追いかけていたんだ。
好きだから、追いかけてしまった。少しでもあたしを見てもらいたくて。一緒に遊んでいることが堪らなく嬉しかった。だから、執拗に追いかけ回してしまった。
ーーその結果、彼がケガをした。
名前は思い出せなくなっても、彼の痛ましい姿だけは鮮明に覚えている。
あたしが追いかけなければ、こんなことにはならなかったのに。どうしてこんなことになってしまったんだろう……
当時のあたしもきっと、こう思ったに違いない。できることなら「やり直したい」と。
ぎゅっと目を閉じ、強く願ったに違いない。彼がジャングルジムから落ちる前に「戻りたい」と。
ふとーー
それまで聞こえていた、悲鳴にも似た泣き声が突然止んだ。
不思議に思い目を開けると、そこにはーー
「なにやってんだよ」
大ケガを負ったはずの彼が、あたしの顔を不機嫌そうに見つめているではないか。
「最初はグーだって言ってんだろ? 早く手ぇ出せよ」
わけがわからなかった。
えっ? どうなってるの?
当時のあたしは、パニックになった。
夢? でも、あのケガは確かにーー
ジャングルジムを見ても、血の跡はどこにもなかった。
やっぱり、夢を見ていたの?
「最初はグー! じゃーんけーん……」
その掛け声で我に帰り、あたしは咄嗟にパーを出す。
……一人負けだった。
「お前が鬼な!」
そう言い残し、友達は皆散っていく。
もちろん、彼も。
さっきもそうだった。パーを出して、一人負けして。それから、彼を追いかけて。それからーー
思い出す。そのせいで、彼に大ケガを負わせてしまったことを。
逃げていくメンバーの姿は、ほんの少し前に見た光景と何ら変わりなかった。一人は砂場へ、一人は滑り台へ、他の二人はかくれんぼでもないのに草むらへと駆けていく。彼はというと、いつもみたいに足の速さを競いたいのか、数メートル離れたところからあたしを挑発してきた。
「へいへいどうした、かかってこいよぉ」
ほら。やっぱり、さっきと同じセリフ。
本当に……夢じゃ……なかったの?
あたしは思った。あの光景は夢なんかじゃなかった、と。
じゃあーー
そのとき、あたしは自ずと理解してしまった。
「願いが叶った」のだと。
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