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欲求は罪ですか?
不倫報道があると、ネット上の聖人君子たちは嬉々として批判コメントをばらまく。
「あんな綺麗な奥さんがいるのに、信じられない!」
「キモい。もう見たくない」
「子どもがかわいそう」
「やっぱりやってたか」
「こういうやつはどうせまた同じことする」
男性に対してはこんな感じだが、女性に対してはもっと手厳しい。渦中の人物が社会的制裁を受けるまで叩き、その後も笑いに変えたりできないほどイメージがダウンする。
しかしよく考えれば、他人の男女関係に、なんの害も責任もない者が叩く権利はどこにもない。ではなぜここまで盛り上がるのか。それは、楽しいから。そして(本人たちは否定するだろうが)潜在的に羨んでいるからだ。
一夫一妻制に押し込められた現代日本の男女。相手が男女関係なく、血のつながった家族であっても、自分以外の人間と毎日顔を突き合わせて暮らせば遅かれ早かれ相手に不満が出てくる。
会社で毎日長時間一緒にいる上司や部下、同僚と徐々に合わなくなることは珍しくない。学生時代から仲の良い友人と部屋を借りて二人暮らしをすれば、三ヶ月後にはどちらかが出て行くことになるだろう。
同性の友達同士なら疎遠になれば、会社ならば異動するか辞めれば済む話だが、性的関係と友情や仕事上にみられる信頼関係という、本来性質の異なるものを同時に良好な状態を続けなければならない夫婦となると、そう簡単にはいかない。養育の必要な子どもがいる場合はなおさらだ。
男性の場合は性的関係、女性の場合は信頼関係に歪みが生じると、相手に対する愛情が薄れていく傾向があると、沙織は考えている。生理的にも、人間は同じ相手との関係が3年を超えると、お互いの努力なしでは軋轢が生じるとか。
だから、夫あるいは妻以外の異性に新しい欲求を抱くのは、自然なことだ。自分を責めなくていいし、他人から意見される筋合いはない。
沙織はまず、「倫理」という後付けのロジックから、自分を解放してやることにした。
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