はじめての婚外活動

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多くの人がそうであるように、沙織もBとの関係が始まった当初は浮かれてしまった。 久々の「女として扱われる感」は体内にエストロゲンを大量発生させ、さながら恋の芽生えのような高揚感に包まれる。髪型、肌、メイク、下着やファッションに意識が向き、日常がわけもなく輝きだす。 日常生活で、今までなら不満に思って苛立っていたことも、すんなり受け入れられたり許すことができるようになる。心に余裕ができる。すると、家庭や職場の空気がまるで変わって見える。婚外恋愛のいちばんメリットは、この点かもしれない。 ここで秘密を持つことに罪悪感を持ってしまったり、交際相手と自分の配偶者とを比べてさらに不満を募らせるようなら、婚外恋愛には向いていない。 罪悪感を持つような中途半端な心理状態で始めてしまうと、表情や言動にかならずボロが出る。交際相手と配偶者を比べだすとやがて、相手の配偶者と自分を比べだすようになって苦しみ、嫉妬といういちばん邪魔な感情を生む。 婚外恋愛はあくまでもエンタテインメント。手に入れるものではなく、手のひらで転がして楽しむ遊びである。飽きたり、金がかかりすぎたり、周囲に迷惑がかかったり心身に危険が及びそうになったら素早く手放せるものでなければならない。遊びの準備や心づもりができないのなら、今すぐ引き返したほうがいい。 沙織が今このように腹をくくれているのには、ワケがあった。彼女はかつて独身のころ、既婚者と関係を持ったことが一度だけあったのだ。
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