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「進藤君、それやめてっていつも言ってるでしょ!みんなが誤解するから」
春音が困ったように進藤を睨んだ。
進藤……。そういえばトイプードルみたいにウェーブのかかった茶髪と、甘い顔に見覚えがある。今日の僕の講義に出ていた。
「俺の気持ちをストレートに表現してるだけなんだけどな。ねえ、春音ちゃん、今度こそ俺の彼女になってよ」
進藤が甘えるような笑顔を浮かべた。
「だから、今日は変な冗談言うのやめてって」
春音が強く言うが、進藤はへらへらと笑っている。
「春音、どうしたの?いつもは進藤のジョークを笑って受け流すのに、なんかムキになってる」
川原さんが不思議そうに瞬きをし、春音を見た。
「だって、今日は先生もいるし」
春音がちらっと僕の方に視線を向けた。
「わっ、黒須先生!先生が飲み会に来るなんて冗談かと思ってたら、本当に先生がいた」
進藤がクリクリの目を驚いたように丸くした。
僕の姿に今、気づいたようだ。
「あの、黒須先生。こんばんは。経済学部三年の進藤です。そして春音ちゃんの彼氏でーす」
進藤が人懐こそうな笑顔を浮かべた。
こいつ。また春音の彼氏だと言うのか。にやけた顔面を殴ってやりたい。
「しんちゃん、そのジョークは止めなよ。春音ちゃんの彼氏が聞いたら怒られるよ」
間宮さんが釘を刺すように進藤を見た。
「黒須先生、しんちゃんは春音の彼氏ではありませんから。あれはいつもの冗談なので、真に受けないで下さいね」
間宮さんが心配そうに僕を見た。
なんて奴だ。春音にいつもそんな冗談を言って来たのか。ますます腹が立って来た。
この場で春音の彼氏は僕だって言ってやりたい。
しかし、春音に口止めされているしな。
「若菜ちゃん、その言い方は酷いな。俺なりに春音ちゃんに告白してるんだよ。高校時代からずっと春音ちゃん一筋なんだから」
進藤が親し気に春音の肩を抱き寄せた。
もう我慢ならん!
思わず、立ち上がった。
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