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「えーと、つまり」
こめかみに人差し指を当てて、少女は学者のように唸った。
「元々は普通の身体の大きさで、昨晩はいつも通り自分の部屋のベッドに入った。そうして目が覚めたら、なぜかここにいたと……」
真剣な面持ちで情報を整理する少女を、カスミは固唾をのんで見守った。いっそのこと、〈隣人さん〉で押し通した方が得策だったろうか。否、それでは帰る方法を探す上で不都合が生じるだろう。彼女がこの状況で頼れる人物は、今のところ、この少女ただ一人だけなのである。
どこかに隠れていた不安が、今になってようやく姿を現し始めた。
ここはどこ?
帰れる?
帰れるのだとしても、身体の大きさはどうしたら元に戻るの? まさか、キノコで背が伸びたり縮んだりするわけじゃあるまいし……。
目まぐるしい速度で回転するカスミの思考を、ふと微風が遮った。どこからかと思えば少女の口からである。期待外れとでも言いたげな顔で、小さく溜め息を吐いたのだ。
「なあんだ。それ、ただの魔法じゃない」
「えっ」
マホウって、魔法? この期に及んで冗談?
だが今の状況を考えると、強ち有り得ないことでもないように思えてくる。この際、魔法の一つや二つで驚いている場合ではなかった。
「どうにかなるの?」
「どうもこうもないわ。外国と空間を繋げたり、身体の大きさを変えたり……そのくらいならチョチョイのチョイよ」
帰れる!
元の大きさに戻れる!
そう思っただけで、小さくなったことで元々軽かった身体が、さらに軽くなったように感じた。
カップの縁にもたれ掛かり、カスミはホッと胸を撫で下ろした。
「ちなみに、ここってどこの国?」
「アズール王国よ」
「え?」
なんて?
「〈水と杖〉のアズール王国。知ってるでしょ?」
そう言って、カスミの背後を指さす。振り向くと、壁に貼られた地図らしき紙が目に留まった。
「それで、あなたの国はどれ?」
アズール、ロート、ジョーヌ、ベルデ――。
見慣れない単語が画面の中心に四つ並んでおり、それらを囲うようにして森が広がっている。
折角差した光が、たちまち闇に呑まれてしまった。
絶望って、これか。
カスミはティーカップの中で再び脱力した。
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