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1日目 朝
カスミはティーカップの中で目を覚ました。
白く光沢のある内壁に、よく知る自分の顔が映っている。昨日の夜、少し切りすぎた前髪もそのまま。
変わっているのは、身を包んでいるのが白いハンカチ一枚であるということ。そうして、目覚めたのが自室ではなく見知らぬ部屋――しかも、ティーカップの中であるということだ。
上体を起こそうとして、やめた。カップの縁へと伸ばしかけた腕を、再び脇に放り出す。ポスン、とこもった音がした。カップの底に、柔らかい布が敷かれている。道理で寝心地がいいわけだ。半身をひねって仰向けの体勢になり、彼女はしばらく身動きをとらなかった。
丸く縁どられた天井は、焦げ茶色の板が隙間なく敷き詰められているばかりで別段珍しいこともない。
しかし、カスミの部屋の天井でないことは確かだ。カスミの部屋には単調な白い壁紙が張りめぐらされており、天井もまた例外ではない。その上に、蛍光灯の管がへばりついているのだ。木材なんて、ひょっとしたらどこにも使われていなかったんじゃないだろうか。
焦げ茶の凸凹した板組を、カスミは何の気なしにボーッと眺めていた。とんでもない状況であるはずなのに、ちっとも頭が働かない。まるで御伽話の中にでもいるかのような夢心地だ。
突然、静止画のように動きのなかった丸い天井の中にヒョイと女の子の顔が現れた。パッチリとしたブルーの瞳で、カップの中をじっと覗き込んでくる。黄金色の髪を揺らし、色白の頬をほんのりバラ色に紅潮させている。
目の前の少女が巨人なのか、反対に自分が小人になったのか。それは分からないが、顔つきを見た限りでは、相手はカスミより随分と幼く思えた。小学校低学年、ちょうど七歳くらいだろうか。
カスミは、昔読んだ童話を思い出した。挿絵に描かれた少女と目の前の少女とが、そっくりであるように思えたのだ。
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