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ひし形と対角線
「今日の授業は、ひし形の性質についてです」
吉本はそう述べると、黒板にチョークを走らせる。
「小学校でも習ったとは思うけど、ひし形は全ての辺の長さが等しい四角形のことを言います。対辺の長さがそれぞれ等しい平行四辺形の特別な形、と言っても良いだろうね。じゃあ関口さん。平行四辺形の性質5つ、言ってごらん」
吉本に指名され、学級副委員長の関口が起立する。
「ええと、対辺がそれぞれ平行で、対辺の長さがそれぞれ等しくて、対角の大きさがそれぞれ等しくて、対角線がそれぞれの中点で交わる、そして点対称である。この5つです」
関口はそう言い切ると、ロングヘアーをなびかせながら悠然と着席した。関口の成績はクラスの女子の中でもトップクラス。加えて目元がぱっちりした凛々しい顔立ちを見ると、天は二物を与えることもあれば一物すら与えないこともあるのだなぁと伊藤は時々考え込んでしまう。
「そうだね。で、これらをもとに考えるとひし形には実はもう1つ、性質があることが分かってくる」
吉本はそう告げると、黒板の図に黄色のチョークで記号を入れ始めた。
「ひし形はすべての辺が等しくて、対角線はそれぞれの中点で交わる。となると、4つに分けられた三角形は3辺がそれぞれ等しくて全部合同になるから、ひし形の対角線は垂直に交わるということができるんだ」
吉本は指示棒を当てながらそう解説をしていった。教室には生徒達がペンを走らせる音が響く。ひとしきり皆がメモを取り終わったところで、吉本が口を開いた。
「『ひし形は対角線が垂直に交わる』ということはこうして証明される、ということなんだ。ところで……」
吉本はそこまで発すると、再びチョークを手に取った。黒板にカリカリと文字が刻まれていく。
「ここで問題だ。次の文章は正しいと思う?正しくないと思う?考えてみて!」
吉本がクラス全員に向かって問いかけた。黒板には
「対角線が垂直に交わる四角形はひし形である」
と書かれていた。
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