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喫茶店の扉を開けると、
夕立の後の町のにおいが
鼻をくすぐった。
濡れた自転車。
ひっくりかえったバケツ。
遊歩道を駆けていく
びしょ濡れの子供たち。
「もうすぐ夏も終わるな。」
ポツリと言った僕の言葉に
「何度もヒロと過ごした夏は、一旦今日で店じまいだね……。」
_______バイバイ。
そう言って駆け出す美咲を、僕は見ることはできなかった。
蜃気楼の影が彼女に重なる。
「幸せになれよ。」
そんな、下手な事は言えない。
ていうか、言いたくない。
「ヒロ!また物語ができたら読ませてね!」
突然、振り向きざまに言った美咲が手を振る。
あぁ、またいつかな。
また、いつか。
「永遠にとけない氷」なんて、本当はない。
でも、確かにあったのは、
いや、今でもあるのは、
自分に正直に生きる気持ち。
美咲を思う気持ち。
これからも、この先も
とけて消えたりはしないだろうな。
ずっと、ずっと……。
そう思って、ふと見上げた空には
やけにまぶしい太陽の光。
本当の気持ちがとけてなくらないように
、ちょっとだけ胸を隠して
僕は誰もいない秋へと足早に道を急いだ。
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