一.氷の舟

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一.氷の舟

  ここは遠い北の国。 満天の星空のたもと。 僕は必死でオールを漕ぐ。 ミルクの波紋をすり抜けて、 滴る水滴を頭に浴びながら。 揺らめく波を乗り越えて 氷の舟は進んでいく。 目指すは北極山(ほっきょくざん)。 目当てはその山に眠る『永遠にとけない氷』 それをシャワーのように削って「かき氷」をつくるのだ。  それは、永遠になくならない「かき氷」 僕自身のためではない。 あいつのために。 たっぷりのイチゴシロップをかけて、 ほおばるあいつの そんな顔が思い浮かんでは、 凍てつく寒さを吹き飛ばす。 _____「夏が永遠に続かないなら、 永遠にとけない氷で、かき氷を作ってよ!」 そんな、夏が大好きなあいつが放った子供じみた我儘(わがまま)。 ふと、そんなことを思い出し、僕は苦笑しながら、氷の舟の舵を とる。 あっ!いけない。 風が強くなってきた。 かじかんだ手が、オールを握る力を失わせる。 あと、少し。 あと、少しで目的地までたどり着くのに。 おや、遠くから声が聞こえる。 僕を呼ぶ声だ。 「ねぇねぇ?聞いている?ヒロ?」______。
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