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三.本当の気持ち
____「夏が永遠に続かないなら、
永遠にとけない氷で、かき氷を作ってよ!」
今でも僕の事を小馬鹿にする美咲。
そんな美咲も昔から、
急にすっとんきょうな事を言って
周囲を困らせた。
あれは、互いに社会人になりたての時だったか。
日本中がサウナ状態で
汗をかきまくってたある夏の日。
なにげなく言った美咲の言葉に、友人たちは大笑い。
でも、僕はその時、心の中でグッと拳を握りしめたのを覚えている。
よしっ、食べさせてあげよう。
何も後先考えていなかった僕は、美咲の言葉を
胸に秘め、皆に内緒で仕事を置いて北極へ。
まぁ何となく、北極クラスに行けば、
とけない氷がありそうな予感がしたのだ。
若いだけなのか、
人としてちょっと痛い奴だっただけなのか、
まぁ、そういう理由にしておこう……。
一緒に行ったツアーのお客さんは、それは目をまるくしていた。
だって、はるばる北極まで行って
絶景のフィヨルドや
夜空に輝く神秘のオーロラには興味を全く示すことなく、
もくもくと氷を削って、サクサク試食している青年が
そこにはいたから。
案の定、帰国してすぐに会社は首になったけど。
でも、それでもよかった。
それでも、美咲に食べさせたかった。
美咲の喜ぶ顔が見たかった。
それだけで、地球の裏側まで行こうというエネルギーに
あの頃はなっていた。
「あれ、ほんと笑ったよね!
まさかヒロが私の言葉をうのみにするとはね。」
「う、うるさいよ!単に驚かしたかったんだよ。」
「でも、あの時のヒロの泣きそうな顔忘れらんなーい。」
手をたたきながら笑い転げる彼女を店主が遠目で見つめている。
そうなのだ。
はるばる遠くから持って帰ってきた「とけない氷」
クーラーボックスに入れていたはずの「とけない氷」
でもその氷は、美咲の前でみるも無残にとけて、
壊れたクーラーボックスからいなくなっていた。
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