四.とけない気持ち

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喫茶店の扉を開けると、 夕立の後の町のにおいが 鼻をくすぐった。 濡れた自転車。 ひっくりかえったバケツ。 遊歩道を駆けていく びしょ濡れの子供たち。 「もうすぐ夏も終わるな。」  ポツリと言った僕の言葉に 「何度もヒロと過ごした夏は、一旦今日で店じまいだね……。」 _______バイバイ。 そう言って駆け出す美咲を、僕は見ることはできなかった。 蜃気楼の影が彼女に重なる。 「幸せになれよ。」 そんな、下手(べた)な事は言えない。 ていうか、言いたくない。 「ヒロ!また物語ができたら読ませてね!」 突然、振り向きざまに言った美咲が手を振る。 あぁ、またいつかな。 また、いつか。 「永遠にとけない氷」なんて、本当はない。 でも、確かにあったのは、 いや、今でもあるのは、 自分に正直に生きる気持ち。 美咲を思う気持ち。 これからも、この先も とけて消えたりはしないだろうな。 ずっと、ずっと……。 そう思って、ふと見上げた空には やけにまぶしい太陽の光。 本当の気持ちがとけてなくらないように 、ちょっとだけ胸を隠して 僕は誰もいない秋へと足早に道を急いだ。
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