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テオは大きく息を吐いた。テオは自分がAIだとはなかなか信じられなかった。
シアの話だと、テオにAIが搭載されたのはかなり最近のことになる。だが、それだとおかしい。
「僕には過去の記憶があります。僕が最近生まれたAIだというなら、この記憶は一体……?」
「それは運営が設定したデータだと思う」
シアは伏し目がちに答えた。
過去の記憶が全て運営が設定したデータだとすれば、ノアとの思い出も全て偽物だというのか。あの楽しかった日々は存在せず、全てはデータだと。
テオは途端に世界が無機質なものに思えてきて、辺りを見回した。
空も森の草木も遠くで鳴いているカラスも、自分自身ですらデータでできているのだ。自分を含めて全てが偽物のように思えた。
だが、ノアに会いたいと思うこの気持ちも偽物なのだろうか。
こうしている間にもノアは冒険者に殺されてしまうかもしれない。ノアがただのデータに過ぎないのだとしても、テオはノアにもう一度会いたかった。
テオの気持ちがデータでできていようが、テオがノアに会いたくて仕方ないことは紛れもなく本当のことだった。
テオは意を決して、シアを見た。
「シアさん。ありがとうございました。ちょっと行かなくちゃいけない用があるんで、僕はもう行きますね」
「え? 用って一体?」
「ノアを――ドラゴンを助けます。あのドラゴンは僕にとって大切な相手なんです」
「でも、君一人じゃ殺されちゃうよ!」
「それでも行かないと」
「待って、じゃあ、うーん」
シアは腕を組んで何か思案を巡らせ始めた。しばらくして、シアは思いついたというように手を打った。
「ここはお姉さんに任せなさい!」
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