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──パールの居る世界に、私は行けない?
「な、なんで……パールは行き来できるのに」
私がそう言うと、まなじりを釣り上げてパールが捲し立てる。
「いや、なんでじゃないわよ! アンタ自分の力量わかってる?剣を使うわけでもないし、魔法が出来るわけでもない、そんな状態でアタシの世界に連れていったら速攻で死んじゃうじゃない……」
だから、ダメよ。と真剣な眼差しで言われてしまう。
「で、でも私だって自分なりの白魔術なら……!!」
「……アンタのあれ、ただの美容健康法だから」
「ぐうっ……!」
いや、心のどこかでは若干そんな気がしてましたけどね……?
フローラルウォーター作ったり、はちみつレモンポーション作ったり、あとはホホバオイルでパールの爪先磨いてあげたりしたっけな……。
でもそんな現実見せるような事言わなくてもいいじゃん……ファンタジックなドラゴンなのに……。
チラリと見るとパールは何とも気まずそうな、労るような視線をこちらに寄越した。
「ちょっと……そんなに落ち込むんじゃないわよ」
「私のは白魔術……白魔術……」
言い聞かせないと心がしんどい。死んだ目でそう呟きつづける私に、パールが困ったように声をかけた。
「そんなに行きたいの……?異世界」
「そりゃもうっ!!」
だって、知ってしまったのだ。
パールの存在を。
その小さくも美しい竜を間近で見てどうして、彼女の居る世界を見たいと思わずにいれようか。
そう告げると、私の竜はなかば呆れながらも意を汲み取ってくれた。やっぱり、私の相棒だ。
「条件があるわ」
「条件?」
「おそらく、アンタに魔術の適性は無い。それはアンタの住む世界と私の住む世界が違うから、根本的な命の造りも違う。これはもうどうしようもないわ」
「……うん」
どうしても声が小さくなる。仕方ないことだと理解はできるのに。
はぁ、とパールがため息混じりに顔を上げて、まっすぐ私を見た。
「だから、アンタはアンタなりの──この世界のやり方を持っていきなさい」
「私の世界のやり方を持っていく?」
「そうよ。ここには魔法が無いけれど、それに代わる道具はたくさんあるじゃない。だからそれをうまく使って、死ななくても済む術を身に付けなさい──命を落とさない術をね」
「それは──」
「常識の違う世界に飛び込むんだもの、何があるか分からないわ。
魔法でなくても……そうね、例えばアンタの作ったポーション。あれは実質初級の回復魔法と同程度の効果はあるわ。お花の香りのする水はおそらく魔除けの詠唱の効果。他にも、まぁ探せば何かしらはあるでしょ」
「最後ちょっと投げたね?」
「うるさいわね」
ふふっ、とどちらともなく笑う。
適性がないというのは正直かなりショックだったけれど……だってパールを喚ぶ事ができたのだ。何かしらの魔術適性はあるのかも、と正直思っていた。
でもそれより、パールの優しさが嬉しい。
諦めそうな心を鼓舞して可能性を探そうとしてくれる、そして何より、身を案じてくれる。
「パールゥ~~~~!!!」
なんだかこの美しい竜がより一層愛おしく思えて、たまらずに抱き付いた。
「ちょっ、苦しいわね!!──目潰し!!」
「アア゛~~ッ、め、目がぁ~~!!」
キラキラと光る吐息を眼前に吹き掛けられ、明るさに思わず目をおおう。
けれどそれも、ちゃんと明るさを調節されているのだと分かる。
「──私、白魔術頑張るから。それに……パールの生まれた世界を見てみたいよ、絶対」
「白魔術というか……いや、いいわ。アタシも手伝ってあげるから、頑張んなさいよ」
異世界だからというだけじゃない。私の相棒が生まれ住む世界はどんなところなのか、そんな興味が湧いてしまった。何がなんでもパール自ら案内してもらわなくては。
だから──絶対会得してみせましょう、私なりの白魔術!!
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