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再生【リプレイ】
バスに揺られて30分は経っただろうか。
俺が今向かっている所は、幼なじみとシェアハウスとして使ってる家だ。
とても田舎で、さっき留まったバス停でも人はいなかった。
周りには田んぼと古民家しかない。
バスから見るこの景色は、いつも俺を安心させてくれた。
……なのに、どうしてだろう。
最近は、妙な焦りを感じるんだ。
このままバスに乗っていてはいけないような、そんな不安な感情に囚われる。
…いいや、きっとなんでもないんだ。
俺の実家は都会だったから、何も無いこの田舎に物足りなさを感じているだけかもしれない。
俺の膝の上に目をやると、小さな花束。
用事から帰ってくるついでに買ったものだ。
淡いピンクの、名前の知らない花。
バスから零れる夕日に照らされて輝き、どこか儚い。
帰る途中にたまたま花屋があったのは本当だが、俺はこれを利用して、幼なじみに頼みをするつもりだ。
まぁ、聞いてくれる可能性は低いんだが__。
「ただいま」
家に入ると、リビングの扉の奥から「おかえり」と声が聞こえる。
声色的に機嫌が悪いわけではなさそうだ。
一回、深呼吸をして扉を開けた。
すると、すぐ目の前に友の顔が見える。
まるで待ち伏せされてたみたいな感じだ。
「どこ行ってたの?」
「……あー、別に」
「ふーん……?…………まぁいいや、はい」
幼なじみが右手のひらを俺に差し出す。
「なに」
「わかってるでしょ?……スマホ、貸して」
幼なじみは、シェアハウスを始めてからというもの、俺のスマホを執拗に見せるよう頼むようになった。
何をしてるんだと覗き込むと、そこにはいつも『電話履歴』の文字やメッセージアプリの履歴。
一体なにがしたいのだろう。
「「………………」」
無言の時間が続く。
が、折れたのは俺だった。
「いいよ、もう。ほら」
スマホを投げつけると、やつはたやすく受け取る。
俺を見て一瞬甘く微笑んだ後、手元のスマホに視線を落とす。
目が鋭くなった。
まるでなにか醜いものでも見てるみたいな、険しい表情。
怖いと思った。
沈黙が続く。
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