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1.
担任の島田先生は白のとっくりセーターをきていた。胸のところのペンダントの石は、おとうさんがしょっちゅうのんでるビールみたいな色。
国語の授業が終わったばかり。次は体育。今日もきっとバスケットをするのだろう。
机の横にかけてあるきんちゃく袋はおかあさんが作ってくれたものだ。その中に体育着がはいっている。紺色のジャージが。
きんちゃく袋に手をのばしていたとき、島田先生が言った。
「女子はね、着がえなくていいです」
ざわめいていた教室が、またたく間にしんとなる。ぽつりぽつりと発せられる、え? という声。
「今日だけ女子は体育の授業お休みして、視聴覚教室に行ってね」
かがんだ姿勢のまま島田先生を見る。黒板の字を消してすぐの教卓に立っているのはつらそうだな。チョークの細かい粉が舞う空気の中にいるのはつらそうだな――なんて思うけど、島田先生は気にしていないようだった。おとうさんやおかあさんよりいくつか若い女の先生。
「え、なんで女子だけなの?」
うしろの席からかん高い声。
誰が言ったのかわかっていたくせに、あたしはふりかえっていた。
授業中も休み時間も関係なく、いつもうるさい男子。奥村タカシの席は一番うしろだ。
やつはねずみ色のトレーナーをよく身につけていて、今日もそうだった。
手をうしろの壁につけてささえながら、椅子をぐわっとかたむけて、すわっている。なんともいえずいじわるな顔。
奥村タカシはなんかだらしないし、ふてぶてしい。見ているだけで腹がたつ。
あたしは、やつがきらいだった。
だけどいまの発言に対しては同意見だ。
(なんで女子だけなの?)
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