29人が本棚に入れています
本棚に追加
でも、目の前に顔がある気配はするのに、一向に唇に触れるような感触はない。
それでも、目をつぶって待っていたが、目の前の顔の気配がなくなった。
目を静かに開けると、ナオ君はうつむいていた。
「ごめん。なんか今日ちょっと……」
続きの言葉を待ったが、ナオ君は何も言わずに立ち上がった。
「そろそろ戻ろうか」
「ねぇ、昼間梨沙と何かあったの?」
思い当たることと言ったら、これしかない。
「えっ?何もないよ」
ナオ君は明らかに動揺している。
でもそれ以上聞かなかった。しつこい女に思われるのは嫌だから。
私もベンチから立ち上がる。
梨沙が何かするなんて考えられない……
見た目で誤解されやすけど、ただすごい人見知りで、団体行動が苦手で、本を読むのが好きで、静かで純粋で穢れを知らない、守ってあげたくなるような子。
梨沙のこと、信じていいよね?
私は何も言わず、ナオ君の後ろを歩いた。
無意識に握った手に力が入る。私は奥歯を噛みしめた。
最初のコメントを投稿しよう!