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早く食べちゃおう、と水上さんが俺の口元にアイスを近づけたそのとき、残りのアイスが全部、棒から抜けて地面に落ちた。
「あっ!」
「うわっ」
地面に落下したアイスは、アスファルトの熱であっという間に溶けていく。
「あと半分くらいあったのに。私がもたもたしてたから。ごめんね!」
水上さんがしょんぼりしている。
「水上さんのせいじゃないよ。半分は食べれたし。気にしないで」
明るく笑って返すと、
「いつも優しいよね、佐久間君は……奈津美がうらやましいな」
と、俺をじっと見つめて言った。何か言いたげな眼差しに、俺は思わず目をそらした。
「そんなこと言って。水上さんだって彼氏いるんでしょ?年上の」
驚いた表情で俺を見る。
「それ、誰から聞いたの?奈津美?」
「え?う、うん」
「そう……」
水上さんが呟いた。いつもより低い声だった。
あれっ?これって言っちゃまずかったのかな?
水上さんの様子を窺おうと、ちらっと隣を見ると、水上さんのアイスもポタポタたれていた。
「あっ、水上さんのアイスもたれてるよ」
「ほんとだ」
水上さんは残りのアイスを口に入れると、なぜか俺の正面に立った。
「え?」
訳が分からず固まっている俺の肩をつかんで背伸びする。
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