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俺の顔に水上さんの顔が近づき、唇が重なった。その瞬間、口の中にパインの味が広がった。ほんの少しだけひんやりしたけど、もうそれはアイスではなく、ただただ甘いシロップだった。
水上さんの顔が離れる。
ただされるがままになっていた俺は、呆然と立ち尽くす。水上さんがアイスの棒をティッシュにくるみ、自分のバッグに入れている様子をぼんやり見ていた。
「行こっか」
水上さんは何事もなかったかのように歩き出した。俺も我に返って歩き始めた。
「今の、なに?」
「佐久間君、アイス半分しか食べられなかったから」
「だからって、なんで……」
暑さでドロドロに溶けた俺の脳みそでは、パインの味以外、今起きた出来事の理解が追い付かない。
どこからかスマホのバイブ音が聞こえてきた。水上さんがバッグからスマホを取り出し画面を見る。
「あ、奈津美からだ」
俺の心臓がざわつく。水上さんはいつもと変わらない様子で電話に出た。
「もしもし……うん、もうすぐ帰るよ……荷物は佐久間君が持ってくれてるから大丈夫。優しいよね、佐久間君」
水上さんが、笑顔で俺を見ながら話をしている。水上さんのことを見ていられなくなった俺は、顔を下に向けた。
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