カフェでひととき

4/12
前へ
/35ページ
次へ
 彼女はわたしを凝視して、パチクリと目を瞬かせた。またもスマホの画面を見て、情報と比べているけれど、きっとこの相手で間違いない。  だってお互いに、名前で呼び合ってしまったところだ。 「成実(なるみ)さんだったの」 「わ、わたしの事知ってるの……?」 「あなた、有名人だもの」  それはあんたの事だよ……! と思わず声に出そうになったのをグッと押し込む。  紫苑真咲(しおんまさき)。  彼女は学校の学年主席だ。進学校ではないから廊下に名前が張り出されることはないけれど、入学式の時に新入生代表挨拶をしていた。  それに、二年目にもなると皆もうわかっている。また紫苑が一位だったらしい、と噂が流れてくる。学校とはそういうものだ。  わたしは別に賢いわけではないし、運動が何か一番というわけでもない。知られていないならそれで、逃げようがあったのだけれど…… 「どうする?」 「え?」  紫苑さんは、わたしの目をじっと見る。この人はこうやって、目を合わせて話す人なのかと、少々の居心地の悪さを感じつつも、聞き返す。 「嫌でなければ、私はこのまま出かけたいと思って」 「じゃ、じゃあ……出かけよっか……?」  学校で一度も話したことのない、ちぐはぐな相手と出かける違和感に、わたしは苦笑いで答えるしかなかった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加