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彼女はわたしを凝視して、パチクリと目を瞬かせた。またもスマホの画面を見て、情報と比べているけれど、きっとこの相手で間違いない。
だってお互いに、名前で呼び合ってしまったところだ。
「成実さんだったの」
「わ、わたしの事知ってるの……?」
「あなた、有名人だもの」
それはあんたの事だよ……! と思わず声に出そうになったのをグッと押し込む。
紫苑真咲。
彼女は学校の学年主席だ。進学校ではないから廊下に名前が張り出されることはないけれど、入学式の時に新入生代表挨拶をしていた。
それに、二年目にもなると皆もうわかっている。また紫苑が一位だったらしい、と噂が流れてくる。学校とはそういうものだ。
わたしは別に賢いわけではないし、運動が何か一番というわけでもない。知られていないならそれで、逃げようがあったのだけれど……
「どうする?」
「え?」
紫苑さんは、わたしの目をじっと見る。この人はこうやって、目を合わせて話す人なのかと、少々の居心地の悪さを感じつつも、聞き返す。
「嫌でなければ、私はこのまま出かけたいと思って」
「じゃ、じゃあ……出かけよっか……?」
学校で一度も話したことのない、ちぐはぐな相手と出かける違和感に、わたしは苦笑いで答えるしかなかった。
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