カフェでひととき

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 春には桃色で埋め尽くされる花咲通りも、夏は街路樹の緑が鮮やかだった。  アスファルトからの熱と、容赦なく照りつける太陽。都会でもセミは鳴くんだな、とどうでもいい感想を抱きながら、わたしと紫苑の間には会話が弾まない。 「でさ、クラスの子から海に行ってナンパされたってメッセージが来て……」  わたしの話すどうでもいい話を、紫苑は一応聞いていて、相槌を打っては沈黙が降る。 (帰っとけばよかったかも……)  その間の持たなさと言ったら、やっぱりわたしと彼女とじゃタイプが違ったのだ、と思うには十分なものだった。  紫苑は行ってみたかったカフェがあるとかで、スマホと睨めっこしながら時々「あっち」とか「こっち」とか「右」とか「左」とか素っ気ない案内をする。わたしはただ、それに着いて行くだけだ。 「あ、ここ」  紫苑がわずかに明るい声を出して立ち止まった。  見ると、ややレトロな雰囲気のある、オシャレなカフェだった。ちょっと大人っぽくて、きっとわたし一人では入れない。  カランコロン。紫苑が扉を開くと、優しい音とともに冷たい空気が流れてくる。 「どうぞ」  紫苑に促され、そろりと店内に足を踏み入れた。
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