38人が本棚に入れています
本棚に追加
春には桃色で埋め尽くされる花咲通りも、夏は街路樹の緑が鮮やかだった。
アスファルトからの熱と、容赦なく照りつける太陽。都会でもセミは鳴くんだな、とどうでもいい感想を抱きながら、わたしと紫苑の間には会話が弾まない。
「でさ、クラスの子から海に行ってナンパされたってメッセージが来て……」
わたしの話すどうでもいい話を、紫苑は一応聞いていて、相槌を打っては沈黙が降る。
(帰っとけばよかったかも……)
その間の持たなさと言ったら、やっぱりわたしと彼女とじゃタイプが違ったのだ、と思うには十分なものだった。
紫苑は行ってみたかったカフェがあるとかで、スマホと睨めっこしながら時々「あっち」とか「こっち」とか「右」とか「左」とか素っ気ない案内をする。わたしはただ、それに着いて行くだけだ。
「あ、ここ」
紫苑がわずかに明るい声を出して立ち止まった。
見ると、ややレトロな雰囲気のある、オシャレなカフェだった。ちょっと大人っぽくて、きっとわたし一人では入れない。
カランコロン。紫苑が扉を開くと、優しい音とともに冷たい空気が流れてくる。
「どうぞ」
紫苑に促され、そろりと店内に足を踏み入れた。
最初のコメントを投稿しよう!