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「お前なぁ....」  ホテルの部屋に戻った俺は、チャイナドレスを脱ぎ捨て、ミハイルを睨んだ。 「なんだ?」  ミハイルは悠々とタリズマンを燻らし、ストッキングを脱ぐのも忘れて仁王立ちする俺を目を細めて眺めていた。 「加賀谷のパートナーも男じゃないか。女装などする必要無かったろう?!スーツで良かったじゃないか」  「駄目だ」 「なんで?!」  思わず語気が荒くなる。ミハイルはまったく動じるふうもなく、いや微妙に目尻を下げて怒り狂う俺にしれっと言い放った。 「似合わない」 「はぁ?!」  ミハイルは不貞腐れる俺の手をぐいと引いて、自分の膝の上に落とし、赤くなっているであろう俺の耳朶に囁いた。 「ラウル、お前はわかってない。その容姿(なり)でスーツなんか着てみろ。却って卑猥だ」 「卑猥って....」  唖然とする俺の唇を軽く啄んで、ブルーグレーの瞳がニヤリと笑う。 「扇情的過ぎると言っているんだ.....あの坊やならともかく、お前では襲ってくれと言っているようなもんだ」 「そんな物好きいるもんか!.....もしいたって、返り討ちにしてやる」 「それも込みで、いかんと言っているんだ」  ヤツの手が、ゆっくりと俺の背中の蓮花をなぞる。俺は身体の内に沸き上がる熱に吐息を洩らした。 「他の奴にお前の可愛い姿を見せるわけにはいかないからな」 「だから、その頭の沸いた発言はやめろ!」  俺はヤツのブロンドの髪に指を絡ませ、崩れそうになる身体を保ちながら、ヤツの耳に歯を立てた。まぁ、軽く....だが。 「そう言えば......あの坊や、なかなかいい目をしてたな」  あやすように俺の髪を撫でながら、ミハイルの唇が楽しそうに笑った。 「気にいったなら、奪ってやったらどうだ?」  一瞬、身体を引き剥がそうとした俺をさらに強く抱きしめ、ヤツが含み笑いながら囁く。 「妬いてるのか?」 「まさか...!」    吐き捨てるように俺が呟くと、ヤツの手が胸の突起を摘まみ、軽く抓った。甘い痺れが背筋を走り、俺は小さく喉を鳴らした。  ヤツは嬉しそうに俺の首筋に唇を這わせ、俺の熱を掻きたてる。 「生憎だが、私はお前で手一杯だ」 「なんだと....?!」  ヤツは俺を横抱きに軽々と抱え上げ、にんまりと笑った。 「まだ躾が足りていないようだしな...」 「なに?!」 「坊やの科白に乗ってたろう?」 「本当のことだろう!」  抗議する俺に、ミハイルの低く響きの良い声が甘く昏く囁いた。 「私は、お前を愛しているだけだ。まだわからないのか。困ったパピィだ.....。もう一度、じっくり教えてやらないとな」  真顔で口元だけ小さく笑いながら、ミハイルは俺をベッドに放り投げた。  後は.....思い出したくない。     
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