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そんな感じで、家に帰った翌日から迷惑メールとイタ電が始まりましたとさ。
いや、本当まじ暇すぎでしょ。てかいつ寝てんだよってくらい四六時中くるから、その執念深さにはある意味感服します。
この勢いであのバカを追いかけてるんならそりゃ捨てられるわなぁって感じ。これは重いわ。あのバカを落としたいなら、ある程度距離をとってあなたには興味ありませんって雰囲気を少しは見せなきゃ。やっぱり男は追われるより追いたい派なんだよとかうんたらかんたら言ってたし。
あの女は、多分最初はそんな感じにできてたけど一発やればコロッとやられて態度が変わったんだろうなぁ。てか、きっと処女だったんじゃないかなぁ。あの年で処女だったならだいぶ拗らせてるでしょ。そんで、顔だけはいいあのバカにチヤホヤされたら舞い上がるのも無理はない。
ただ、このイタ電とメールの数を見るに絶対メンがヘラってるタイプだわ。
まぁ、今のところはメールとイタ電くらいだからどうこうするってのもどうかなぁとは思うけど⋯⋯いい加減うざい。
毎朝起きて、この履歴を見るのは本当にいい加減萎えるわ。あのバカにどうにかさせるのが1番なんだけど、なかなか動かないあのバカにもいい加減腹が立ってくる。いや、いい加減じゃないわ。だいぶ前から腹は立ってる。
という感じで、わたしの機嫌は日を追うごとに悪くなっていったのである。
そして、わたしの機嫌がMAXに悪くなるあの日を迎えることとなる。
機嫌はすこぶる悪い上に、朝から降る雨に余計に機嫌は悪くなる一方で、イライラとしながら朝の支度を整えた。
いつもの時間通りに家を出ると、出るまでは小雨だったのにわたしが外へ出た瞬間にバケツをひっくり返したような雨になる。そのことにもイラつきながらビニール傘をさして一歩雨の中へ踏み出すとわたしのスマホの着信が鳴る。
掛けてきた相手の名前を確認すると、あのバカだったので無視しようと思ったけれど、この鬱憤を晴らせるのはあのバカしかいないだろうと思ってイヤホンをつけて緑のマークをタップする。
スマホをスーツのジャケットのポケットに入れて駅へと向かって歩き出す。
「なに」
『おー、でたでた。おっはー、XXXちゃーん。相変わらず朝から機嫌わっる』
「⋯⋯うっさい、誰のせいだと思ってんの」
『えー?俺のせぇ?』
「まじ、いっぺん刺されろ」
電話越しでもへらりといつものように笑ってるバカが想像できてほんとむかつく。
あとついでにさっき通り過ぎた車。がっつり水溜りの水を跳ねていって若干わたしの足元を濡らした。あの車まじ事故れ。
『ちょ、ひでぇ』
酷いと言いながらもこいつの語尾には草が生えている。絶対、漫画や小説で見たなら草が生えてる。そんな感じの言い方にも腹が立ってくるわけで。
「うっさい⋯⋯それで?何?用がないないなら切るけど?」
『あー、ありますあります。この前のさぁ、あの子なんだけど』
「ああ、あのプリンちゃん?あの子一体いつ寝てんの?暇人なの?いい加減に鬱陶しいんだけどどうにかしてくんないかなぁ」
『⋯⋯あの子お前のとこきてるわけ?』
まじかよ、と若干焦った声音でバカは呟いた。
「本人は来てないけどあの日からイタ電とメールが大量に来てる」
『あ、そっちね』
「そっちてなによ?いい加減毎日毎日本当にうざいんだけどあの女。どうにかして」
『あー⋯⋯俺がどうにかするから。絶対、あの子に呼ばれてもついていくなよ?』
「⋯⋯なに?なんかあんの?」
急に真剣な声音になったあいつに、わたしもふと足を止める。
ちょうど、近くにある橋の中間あたりだまで来ていた。ちらりと川に視線を向けるといつもは穏やかな流れの川が、茶色く濁った濁流になっている。
『いや、なんかアレやばいわ⋯⋯まじで、今回のはやばいメンヘラどころじゃないわ』
「⋯⋯だから、ちゃんと女選んで遊びなよっていってんじゃん。まじであんた刺されるんじゃない?」
『ちょ、怖いこといってんなよ!てか、まじそれフラグ!』
「自業自得でしょう?てか、今まで刺されなかったのが不思議だ、わ?」
足を止めたまま、バカとの会話に意識を取られていたら前から歩いてきていたのであろう自分がわたしにぶつかってきたのと同時に腹部に酷い痛みが走った。
ぶつかってきた相手はボソリと何かを呟いた。
「⋯⋯ね」
「っ⋯⋯な、に?」
『XXXちゃん?』
一瞬なにが起こったのかわからなかったけれど、ぶつかってきた相手が離れるのと一緒に腹部へ目をやるとわたしの腹に包丁が刺さっていた。
あ、刺されたんだ、わたし。と思った瞬間に橋の手摺りへと押さえつけられ、わたしが持っていた傘と鞄が手から落ちる。
「⋯⋯しねっ!!!」
「いや、意味⋯わかん、ないしっ!」
刺された腹の痛みであまり力を入れることができない。わたしを刺した人間は雨合羽を着てフードを被っているので顔はわからない。でも、さっきの声でわかった。あの女だ。
わたしの腹から抜きとった包丁を振り下ろそうとしている手をどうにか両手押さえる。
「まじ、で⋯⋯頭んなプリンちゃんじゃん⋯ふざけん、なよブス」
「うっさい!!うるさいうるさいうるさい!!!あんたがいるから!!しねしねしねしねしね!!!」
本当に、狂ってる。耳についてるイヤホンからは、バカの焦った声が聞こえる。こちらの異変に気付いたみたいだけど、もう遅いわ。
必死で相手の腕を押さえるけど、雨で濡れてるため手が滑りそうになる。ここは一か八かで、この女の足に蹴りを入れて間合いを取るのが一番だと思い片足を上げた瞬間、身体が背後へと傾いた。
そして——
「まじ、最悪⋯⋯」
わたしは、背後の濁流へとのまれた。
最後に見えたあの女の顔は、綺麗な笑顔だった。
最後に聞いたのは、バカのわたしを呼ぶ焦った声だった。
そして、わたしは死んだ。
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