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人魚?
「らっしゃい、お、魚野さん。今日は何をお求めで?」
八百屋の店主、野口俊菜(のぐち あきや)
が、豪快な笑みを向けてくる。おやっさんと呼ばれて親しまれているスキンヘッドに鉢巻のおじさんだ。
「そうだな、ジャガイモと玉ねぎとニンジンを頼むよ」
晩飯として作る予定の肉じゃがの材料を頼む
「おっ、今日はカレーですかい。」
「いや、肉じゃがだよ」
「成る程、そっちかー」
何故悔しがっているのだろう?
おやっさんは話しながらも手を動かし、注文した野菜を袋にまとめて手渡してきた。
「はい、お待ち!」
「ありがと、じゃあまた」
帰ろうとすると野口に呼び止められる。
「ちょっと待ったー、」
何だ入れ忘れでもあったのか?手元の袋を確認するが、注文した野菜は全て揃っている。
「ちょいと相談がをしたいんだが、」
「相談、ですか?」
「ああ、魚野さんって一人暮らしだったよな」
「ええ、まあそうですけど」
「結構広いとこ住んでたよな」
確かに1人で暮らすには広めのアパートを借りている。この街に越してきた俺は、人口減少対策として移住をした人にそこそこの家だったり部屋だったりが格安で借りられる制度を利用しているから。だが、それがどうしたというのだろう?
「何ですか、奥さんと喧嘩でもしました?」
野口さんは一度奥さんと喧嘩して家を追い出されたことがあったから、多分今回もそれかなって思ったのだが、
「いえ、そうじゃなくて。」
「じゃあ何でそんなことを聞くんです?」
「もらって欲しい子がいまして、、」
ペットの押し付けか?また野良猫でも拾ったのかこの人は、
「猫ですか?」
「いや、それがその」
豪快な性格のおやっさんにしては珍しく言い淀んでいる。ほんの数秒の沈黙の後、おやっさんは口を開いた。
「"人魚"なんだ」
? ???
えっ?今なんて
「えっと、何ですって?」
? 頭が整理されるよりも先に聞き返してしまった。何も考えずに聞き返すのは良くないぞ俺!
「だからな、人魚なんだよ」
「え?」
ダメだ、考えても意味がわからない。おやっさんついにボケ始めたのか?
「人魚ってあの?いわゆるマーメイドゥ?」
「いえす、まーめいど」
おやっさんは平仮名英語で返してくる。まあおやっさんが流暢だったらそれはそれで似合わないが。
「しんじらんねえのは分かります。いったん本物を見てもらった方が早いでしょう」
そう言っておやっさんは、俺を店の奥へと招き入れた。
ガララッ
おやっさんが裏方の方の古めかしい引き戸を開けるとそこには人魚?がシンクの中で水を浴びていた。
「え?コレ人魚?」
思わず確認をとる。空想上の生き物が目の前に現れたからではない。人魚と呼ばれるそれが明らかに、サメに喰われかけの少女だったからだ。
「ああ、本人曰くだがな」
え、何でそんな平然としてるの?どう見ても少女捕食中のサメにしか見えないんだけど、、
てか、本人曰く?本人ってどっち?
「おお、おやっさん!そいつが私に住処を提供したいという者か!」
上半身?少女の方が話しかけてきた。あっ、思ったより元気そうで何よりです。下半身のサメは何ですか?頭ついてますけど、偽物?
じゃない。えっ住処、提供?あっ、そういえばもらって欲しいって言ってたな。って、え?
「まあ、そんなもんかな」
ちょっとお?おやっさん俺そんなこと言ってないよ!
ってあれさっきから俺驚きっぱなしで声出してなくね?
「まった、まったまった。おやっさん、女の子誘拐するのはダメだよ。」
違う、いや違くないかも。サメの寝袋に入った少女をおやっさんが誘拐してきた可能性も。
おやっさんには申し訳ないけどそうであってくれた方が俺的には落ち着ける。
「誘拐なんて人聞きの悪い、この子は今朝ウチの看板にめり込んでたんだよ。」
はあー、成る程。朝看板から少女が生えてたと。それもこんな奇抜な、
「んな訳ないでしょ!」
久しぶりに声を荒げてしまった。冷静キャラな俺としたことが。
「本当だよ」
人魚?が話しに入ってくるが、、やめて!今君に入ってこられると俺の脳のキャパがガガガ、、
「私は本当に看板に刺さってたよ。ママの怒りを買って吹っ飛ばされて」
随分豪快なお母様ですね!
「まあ、そういうことなんで貰ってくれやしませんかね?」
「えっ?この子をうちに?
ダメでしょ流石に。男1人の家に女の子住まわせるのは!」
「いや、人魚だしセーフだってことで」
「うん、セフセフ」
どーいう理論だよ?てかセフセフって、人魚おい!お前自分の見た目わかってんのか?悔しいけど結構可愛いからね君!
「じゃあそういうことで、頼みます魚野さん」
「で、ます!」
勝手に決めないでください!
「いや、引き受けるとは、」
断ると2人して悲しい表情を向けてくる。
「こんな可愛い女の子を捨てるっていうのかい?」
いや、さっき人魚だからって
「私、捨てられるの?」
ちょ、心が痛むからそんな顔で見ないで、
「おやっさんの家じゃダメなんですか?」
「家内に年頃の女連れ込んだのがバレたら俺がこうなっちまう。」
こうなるって、やっぱサメに喰われてるように見えてるよね?よく人魚とか言えたね?!
「おねがい、」
あっ、ダメだ可愛い、、
じゃない、俺の良心が、
「分かりました。うちで良ければ」
まあ、余ってる部屋もあるし大丈夫だろう、
大丈夫 大丈夫、だよな?
「よかったな、嬢ちゃん」
「ありがとね、おやっさん
よろしくね、えーっと?」
「魚野です、魚野海斗」
「私はリウム、よろしくねカイト」
こうして俺は人魚を引き取ることになった。
さて、人魚との共同生活をそつがなくこなすことはできるのだろうか?乞うご期待!
天の声 cv魚野 海斗
あっ、魚野海斗ってのは俺です。
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