お別れの時

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「やっぱり、何処か打ったんじゃないのか?」 心配する兄さんの手元に、倒れる前に見ていたアルバムが落ちていた。 思わず抱き着いたまま視線を向けると、中学生の兄さんが笑っている。 (あぁ!過去が少しだけ変わったんだ) 思わず微笑んで 「兄さん、初めての相手って覚えてる?」 そう聞くと、兄さんの顔が「ボン!」っと音を立てたんじゃないかって程に真っ赤になった。 「お…覚えてない」 不自然に視線を逸らす兄さんに 「え!覚えてないの!」 って、わざとらしく驚いてみせた。 すると少し視線を落とし 「それが…凄く大好きな年上の人が居て、その人だったのは覚えてるんだけど…」 そう呟いた。 (あぁ…そうか。俺は存在しちゃいけない人だから、記憶が消されたんだな…) と、ぼんやりと考えていると 「何か……唯一、田中と取り合ったような……。あいつに奪われたくなくて、必死だったのは覚えてる」 そう言ってから、突然俺の身体を強く抱き締めて 「でも、今は葵だけだから!」 って、必死に言っている。 今日、母さん達は引越しの邪魔をさせないように、ちび達を連れて旅行に行っている。 俺は、アルバムの中で笑う兄さんの写真に1度視線を落としてから、今の兄さんの顔を見つめる。 そっと再び唇を重ね舌を差し込む。 驚いた顔をした兄さんも、俺のキスに応えるように強く抱き締めてキスを重ねた。 ゆっくりと唇が離れると 「ねぇ…少しだけ、引越しの準備をお休みしようか?」 誘うように兄さんに囁く。 すると兄さんは、突然俺の頭を触り始め 「葵?やっぱり、何処か打ち所が悪かったんじゃないのか?」 って、顔を真っ赤にしながら心配そうにしている。 俺が頬を膨らませ 「大丈夫って言ってるだろう!それとも…嫌なの?」 そう言って兄さんの顔を見上げると 「嫌……な訳、無いだろう」 と言って俺を抱き上げた。 引越しの準備は、後あのアルバムを箱に詰めたら終わり。 兄さんのベッドに下ろされて、唇を重ねる。 中学生の兄さんより、慣れたキス。 あの後、何人の人を抱いたんだろう?って…ふと考えていると、兄さんの手が俺のシャツを脱がせて自分のシャツも脱ぎ捨てた。 中学生の兄さんより、逞しくて鍛え抜かれた身体が現われる。 そっと頬に触れると、再び唇を重ねる。 ゆっくりと首筋から鎖骨へと唇を這わす兄さんの頭を抱き締めて 「兄さん…今は俺の身体の事を考えずに、好きに抱いて」 と呟いた。 「え?」 「兄さん、本当はいっぱい俺を抱きたいんでしょう?」 そう言って微笑むと、兄さんは困ったような顔をした。
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