幾つでも、やっぱり兄さんだ

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な…なんですと? 俺が…俺が兄さんを「翔」と呼べる日が来るなんて…。 嬉しくて歓喜の涙を流して喜んでいると、中学生の兄さんが頬杖ついて俺の顔を見ていたんだけど、ふいに微笑んだんだ。 (あぁ!中学生の兄さんの笑顔もイケメン!) 心の中で叫んでいると 「どなたですか?」 空気が凍り付くような声に固まる。 硬くなって振り向くと、冷めた目をした田中さんが俺を見ていた。 「た…田中さん!」 思わず叫んで、慌てて口を塞ぐ。 多分、まだ20代前半の田中さんなんだろう。 冷め切った冷たい目で俺を見て 「何故、私の名前を?」 そう呟いた。 そこに居る田中さんは、俺の知っている田中さんでは無かった、 冷めた冷たい目をした、どこか人生を捨て去っているような顔をしている。 俺がどうしようと悩んでいると 「しばらく家の事をしてもらう為に、俺が雇った」 と、中学生の兄さんが呟いた。 「翔さんが?何故?」 「お前、会社に入ってやっと2年目だろう?仕事に集中出来るようにだ」 俺の知らない、冷たい2人の会話。 笑顔も無く、淡々と交わされる会話。 聞いていて胸が痛くなる。 「あの!俺、こう見えて家事は得意なんです。ご迷惑をお掛けしませんので、よろしくお願い致します!」 そう言って頭を深々と下げた。 田中さんはそんな俺を蔑むような瞳で見つめ 「翔さんに何かあったら、お前を2度と陽の目を浴びない場所へ落としてやるからな」 と言い残して去って行った。 (蒼ちゃんと出会う前の田中さんって、あんな感じだったんだ…) ショックだった。 俺の大好きな田中さんはいつも優しくて 『葵さん』 って、俺の頭を撫でてくれていた。 笑うと目が無くなる優しい笑顔が懐かしい。 落ち込んでいると 「お前、田中も知っているのか?」 驚いた顔をする中学生の兄さんに 「はい。でも、俺の知ってる田中さんとは違っていてショックでした」 そう呟く。 「葵が知っている田中は、どんな感じなんだ?」 と聞かれて 「俺の幼馴染みの恋人で、いつも笑顔で優しい人です。兄さんには、いつも戯れてばかりですけど…。でも、仲の良い兄弟みたいで微笑ましいくらいなんです」 そう答えた。 すると中学生の兄さんは驚いた顔をして 「田中に恋人?セフレじゃ無くて?」 と聞かれて絶句する。 「えっと…、恋人です。それも、めちゃくちゃ田中さんが溺愛してます」 そう答えた俺に、中学生の兄さんは小さく笑って 「そうか…。あいつは未来、笑っているのか…」 と呟いた。 中学生なのに、やけに大人びているのが切なかった。
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