幾つでも、やっぱり兄さんだ

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「夕飯、何にしましょうか?」 そう言いながら冷蔵庫を開けて 「兄さんの好きなハンバーグを作りますね」 と言うと 「良く…知ってるな」 って驚いた顔をする。 まだ半信半疑なのは当たり前だ。 俺は田中さんに教わったレシピで料理を作って出した。 一口口にした兄さんは、俺の顔を見て 「信じるよ、葵の話」 そう呟いた。 「これは、田中が俺の為に考案したレシピだ。それを作れるって事は、間違い無いんだな」 感慨深くそう言うと、 「それに、うちの家の中のこともよく分かってる。葵は本当に…俺の弟なんだな…」 と呟いた。 「いつ帰れるかわからないから不安だろうが、うちはほとんど俺1人しか居ないから気兼ねなく使ってくれ」 と言い残すと、兄さんは自分の部屋へと戻って行った。 (上げ膳据え膳だったと聞いていたけど、本当なんだな…) 食べ終わったままの状態で席を立った兄さんを見て、未来の兄さんがどれだけ俺達家族の為に歩み寄ってくれていたのかを知った。 食器を片付けていると、突然腕を掴まれて壁に背中を打ち付けられる。 そして顎を掴まれると、憎悪の目をした田中さんに 「どうやって翔さんに取り入った?」 と聞かれた。 「取り入るって…」 驚いて田中さんを見ると、憎悪と軽蔑の目で俺を見ている。 「あの人を傷付けるような事をしたら、この可愛らしい顔が好まれる場所へ犯しまくった後に売り落としてやるから覚悟しろ!」 そう呟いた。 俺は悲しかった。 「田中さん…、あなたは本当は優しい人なのに…」 と呟くと、田中さんは鼻で笑い 「そう言えば、許してもらえるとでも?」 そう言うと、テーブルの上の物を腕で床へ落として俺を押し倒した。 「何するんですか!」 驚いて叫ぶ俺に 「私に抱かれたくて、此処に来たんだろう?翔さんに取り入って…」 そう言うと、唇に田中さんの唇を重ねた。 (嫌だ!助けて!) 必死に抵抗しても、鍛えられた田中さんの身体はびくともしない。 必死に唇から逃れようと、田中さんの唇を軽く噛んだ。 「…っう」 小さく呟き、唇が離れる。 「止めてください!俺は、田中さんに興味無いです!」 そう叫ぶと 「じゃあ、翔さんが目当てですか?悪いですが、彼はノーマルですよ。確かにあなたは可愛らしい顔をなさっていますが、所詮は男。翔さんと釣り合いが取れるとでも?」 と、馬鹿にしたように言われてしまった。 『葵さん、大丈夫ですよ』 そう言って、いつも微笑んで応援してくれていた田中さんの冷たい言葉が胸に突き刺さり、涙が溢れて頬を伝う。 すると田中さんはそんな俺に軽蔑の視線を投げて 「まさか…本当に翔さんを狙っていたのですか?身の程知らずも甚だしい!」 吐き捨てるように言われ、涙が止まらなくなる。 『葵さん』 優しく微笑んでくれている田中さんが居ない世界は、こんなにも冷たく恐ろしい世界なんだと知った。 俺達は、田中さんにどれだけ守られていたかを思い知らされた。
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