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きみの笑顔を守りたい
「まさか…信じられません」
兄さんが俺から聞いた話を聞かせると、田中さんは戸惑った顔をした。
「だが、他はどうとでもなる話だが、このレシピはお前しか知らない筈だろうが。葵の話では、親父と葵の母親が再婚して、未来、俺達は兄弟になるらしい。その時、お前がレシピを書いたノートを葵の母親に託すらしい」
そこまで話すと、やっと涙が落ち着いた俺に
「ところで葵、蒼ちゃんって誰だ?」
と、中学生の兄さんが聞いて来た。
「え?」
驚いて兄さんの顔を見ると
「なぁ…田中。お前、3年後に運命の出会いってヤツをするらしいぞ」
と言うと、ニヤニヤして
「お前が恋人を作って、しかも溺愛するんだと。楽しみだな〜。そんなお前を見るの」
なんて言ってる。
すると田中さんは呆れた顔をして
「信じられませんね。私が誰かと真剣に付き合うなど…」
と言ったので
「でも…事実です。あの…、未来に帰ったら今日の事を蒼ちゃんに報告させて頂きます」
と、ぺこりとお辞儀して呟く。
すると田中さんはバツの悪そうな顔をして
「本当に…私が誰かと?」
そう言って戸惑っていた。
「はい。俺は蒼ちゃんと付き合った後の田中さんしか知りませんでした。だから、今の田中さんには戸惑うというか…」
「そんなに違いますか?」
「はい。未来のあなたはいつも穏やかな顔をして、笑顔を浮かべています。そんな冷めた目をしていません」
そう呟いた俺に、田中さんがハッとした顔をして
「あの…社長が再婚なさる方って…」
と聞いてきた。
「え?神崎京子です。俺は、母さんの息子で葵と言います」
今更ながらご挨拶をすると、田中さんは口元を押さえて考え込む。
「信じられません…」
と呟いて
「あなたは…本当に未来から?」
そう言って俺に頭を下げた。
「大変申し訳ございません」
深々と頭を下げられて、今度は俺が戸惑う。
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