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私には見えない友だちがいる。
生まれた時からずっとだ。
そう言う話をすると、お父さんとお母さんはすごく慌てて、終いには怒り出すので、最近では滅多に口に出すこともない。
だけど本当の話だ。
見えない友だちは、私が困っていると『出て』きてくれて、私を助けてくれる。もちろん困ってない時だって『出て』くる。時に話し相手になってくれたり、一緒に遊んでくれたりもする。
ある夏の日のことだ。
その日私は、親に連れられ縁日に出かけていた。普段は人通りも少ない街道も、その日はたくさんの人手でごった返していた。
通りの両側にずらりと並んだ屋台から、たこ焼きだったりクレープだったり、活気のいい声と匂いがそこらじゅうで飛び交っている。太鼓や笛、流行りのポップソングまで、通りは大騒動だった。
そんなだったから、つい親とはぐれてしまった。
手を離しちゃダメよ、とあれほど強く言われていたのに、いつの間にか私は一人になっていた。風船が萎んでいくみたいに、私は急に心細くなって、キョロキョロと首を動かした。夕陽はもう沈んでいた。賑やかな夜の通りに、私は一人取り残されてしまった。
どうしよう……。そう思った矢先に、上から声をかけられた。
「あなた、大丈夫?」
やっぱり。来てくれた。見えない友だちだ。私はぱあっと顔を輝かせ、大きく頷いた。
「あなた、目が見えていないのね?」
私の様子に、その友だちは心配そうに私の顔を覗き込んできた。そう言う気配がしたので、分かった。
確かに私は生まれつき目が見えていない。
「平気です」
だけど私はシシシ、と白い歯を見せて、その友だちに答えた。
「見えない友だちが、たくさんいますから」
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