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転校生
「 転校生がやって来る」という担任の言葉に、梓の教室は色めき立った。
男子という情報しか無いのに、女子達はあれこれと理想の生徒を思い浮かべては、期待を膨らませていた。
それを見事に切り裂いたのは転校生、谷口。彼はクラスメイトの心を一つに揃えた。
──なんか、暗い。目も合わせてくれない。
男子は人気を独占されなかった事に安堵し、話しかけるも反応は薄い。
谷口は緊張なのか不安なのか、上手く話が出来ず、それが続き、いつまでもクラスに馴染めないままだった。
しかし、それを見つめる暖かい眼差しがあった。クラスメイトの人気者、梓は、そんな谷口の存在を黙って見過ごす訳には行かない。
「谷口君、何読んでるの?」
休み時間、谷口が手にしていたのは、図書館から借りて来た小説だった。小学生にしては厚みがあり、難しそうだ。
──こんなの誰が読むのだろう?
小学生なら一度は感じた事のある、小学校の図書館に潜む謎の答えを谷口は持っていた。
「いや、大したものじゃないよ」
「じゃあ、何で読んでるの?」
ストレートな質問は、子供だから許された質問だろう。しかし梓は見逃さなかった。一瞬、谷口が明るい表情になった事を。
「面白そうだから。本を読むのが好きなんだ」
当たり前の会話の中に、何かの兆しを感じた。
「お勧めの本とか有るの?」
谷口はノートを一枚破ると、作品名をスラスラと書いていった。
やがてノートが埋まるほどの作品名を書き終える頃には、数人の梓の友達が集まっていた。梓に用事があったが、思わず作品リストに目が留まる。
またしても谷口は生徒の心を一つに揃えた。
──いや、多くない?
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