1195人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
17話
pipi pipi…pipi pipi…
「んん……あれ、もう朝…?」
私、いつの間に寝たんだろ。
昨夜は確か…そうだ。
眠れそうにないからって、あの後亜門さんにお酒付き合ってもらったんだよね。
缶チューハイは安っぽいだの、ワインが飲みたいだの散々文句言われたけど、何だかんだ付き合ってくれて…
しばらくして、亜門さんにそろそろ帰るって言われて…
あれ?そっから全然覚えてないんだけど。
でも、ちゃんとベッドで寝てたな私。
「って、今はのんびりしてられないんだった。さっさと準備して仕事行かなきゃ。」
バタバタと洗面所で顔を洗い、朝ご飯を準備しようとキッチンへ行く途中、リビングのソファーに違和感を覚えた。
何だか盛り上がってるような…?
何だろう。
あんな大きな物、ソファーに置いた覚えは無いんだけどな。
得体の知れないものに不安になりながら、恐る恐る近付く。
そして、それが何なのか理解した瞬間、あまりの驚きに朝っぱらから大声を出す羽目になった。
だってそこに居たのは…
「亜門さん!?」
え、何で?
何で亜門さんが家のソファーで寝てるの?
どういうこと?!
私が脳内パニックになっている中、大声にも屈さずスヤスヤ眠り続ける亜門さんの寝顔は、それはそれは気持ちよさそうで…
どうしよう。
起こす?
まだ7時にもなってないけど…果たして起きるのだろうか。
でも、このままソファーで寝かせるわけにもいかないよね…。
ブランケットだけで寝ちゃってるし、風邪ひいちゃうかもしれない。
というか、普通に考えてまずくない?
私はベッドで寝て、亜門さんがソファーとか。
雇い主ソファーで寝かせちゃ駄目でしょ。
逆なら分かるけど。
いや、そもそも何で亜門さん帰ってないの?
確かそろそろ帰るって言ってたよね?
「んん…うるさい…」
あ…もしかして全部声に出ちゃってた?
「あの…亜門さん。起きてください。ソファーで寝てたら風邪ひきますから。」
「ん…今何時…」
「まだ6時半ですけど。」
「…もうちょっと寝る…」
「駄目です、寝ないでください!寝るなら、お家に帰ってからゆっくりと寝た方がいいです!」
「は…?家に帰ってからって…」
怪訝そうに言いながら寝がえりをうつ亜門さんが、止める間もなく目の前で見事に床に落下した。
「いっ…てー…」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないだろ。何で寝がえりしただけで落ちて……ああ、そうか。ここあんたの家だったな。」
すぐに理解した辺り、亜門さんには昨夜の記憶がちゃんとあるみたい。
良いのか悪いのかは分からないけど。
変な事とかしてないかな、私…。
「…おはよ。」
「お、おはようございます…」
ソファーに座り直した亜門さんは、特に機嫌が悪い様子はない。
「スッピンって事は、あんたも今起きたばっかり?」
しまった…!
亜門さん居るとか思って無いから、まだ化粧なんてしてなかったよ…
ありえない…彼氏でも家族でもない人の前にスッピンでいるとか無理!
「すぐに化粧してきます!!」
「は?何でだよ。別にそのままでいいだろ。」
「いや、でもですね…?」
「そんなことより!寝てる俺の頭元で何をブツブツ言ってたんだ?おかげで寝覚めが悪いんだけど。」
そんなことよりって…。
まぁ、どうせ見られちゃってるし今更遅いか。
「その…何で亜門さんがここにいるのかな~と…」
「もしかして…覚えてないのか?」
「…すみません。」
一瞬の間を置いて、溜め息が聞こえてきた。
「結構酔ってたみたいだし無理もないか。どの辺まで覚えてる?」
「亜門さんが、そろそろ帰ると言っていたのは覚えてるのですが…」
その後が全く記憶にない。
「その後何があったか教えてもらってもいいでしょうか…?」
「…知りたいか?」
え…何その真顔。
私何かとんでもないことでもしでかした…?!
「…ぷっ。そんな不安そうな顔しなくても、大した事は何にも無かったから安心しろ。」
くつくつと笑い続ける亜門さんに、ちょっとムッとする。
こっちは記憶がないから本気で心配したのにっ。
「俺が帰るって声かけた時は、一応返事はあったんだよ。でも、あんた今にも寝そうだったからな。合い鍵があるのか聞いたけどまともな返事無かったし、鍵開けたまんま帰るわけにもいかないだろ。」
「そう、ですね…。」
「そうこうしてる間に、あんたは本格的に寝始めたわけ。だから、仕方なくベッドまで運んでやって、俺はソファーで寝たってだけ。分かったか?」
なるほど…そういうことだったのか。
亜門さんが、鍵開けたまま帰っちゃうような人じゃなかった事に感謝。
というか、無理矢理お酒付き合ってもらったみたいなもんなのに、酔いつぶれた上にこんな所で泊まらせてしまって申し訳なさすぎる…
「すみません…ベッドまで運ばせてしまって…。重かったでしょう?そのまま私の事なんて放っておいて、亜門さんがベッドで寝てくれても良かったんですよ…?」
「そんなこと出来るわけないだろ。あんたに風邪でもひかれたら俺が困るんだよ。…世話してくれるやつがいなくなるだろ。」
「そうですね…本当に申し訳ありません。」
亜門さんにこんなに迷惑かけて…申し訳ない以外の言葉が浮かばない。
「そんなに悪いと思ってるなら…今から俺が言う事に何も言わずに同意したら、今回の事は水に流してやるよ。」
「え…」
それって、お前に拒否権は無い、ってやつよね…?
一体何を言われるんだろう…怖すぎる。
でも…
「…分かりました。何でもおしゃってください。」
「そうか。じゃあ、今日から住み込みの家政婦って事でよろしく。」
「……え?」
「え、じゃないだろ。何も言わずに同意しろって言っただろ。」
「いや、あの…はい…」
住み込みの家政婦…?
何でまた急に?
疑問しか浮かばなかったけれど、拒否権の無い私には頷く事しか出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!