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20話
「ご馳走様。」
「片付けますね。」
「その前に、話あるんだろ。」
…片付けの間待たせるのも、申し訳ないか。
「あの…住み込みを、やめたいんです。」
「は…?何だよ急に。何か不満でもあるのか。」
「いえ、不満とかそういうことでは…。ただ、住み込みである必要は無いんじゃないかと。亜門さんにも、特に理由は無いようでしたし…」
瞬間的に、亜門さんの顔が不機嫌そうに歪んだ。
「…必要かどうかなんて、あんたが決める事じゃないだろ。」
「それは…そうなんですけど…」
「住み込みだと、何か都合悪い事でもあるのかよ。」
「…」
言えるわけない。
好きだから、なんて。
「無いなら別にいいだろ。」
「いえ、でもやっぱり…」
「何なんだよ。最近何か変だぞ?何かあるならはっきり言えよ。」
やっぱり気付かれてたんだ。
はっきり言えなんて、簡単に言わないで欲しい…。
言えるんだったら、とっくに言ってるよ。
言ってしまえたら、楽なのかな…
「だったら…」
もういっそ、言ってしまおうか。
家政婦も辞める事になっちゃうけど…亜門さんにとっても、その方がいいかもしれない。
「だったら、私が亜門さんの事を好きだから、と言えば…納得してもらえますか…?」
「は…?」
「すみません、急に…迷惑なのは分かっているので、大丈夫です。住み込み…というか、家政婦自体クビにしてもらって構いません。…今まで、お世話になりました。失礼します。」
「な…ちょっと待て…!」
「もう話は……あれ…?」
腕を掴まれた反動で振り返って数秒、視界が変な事に気付いた。
亜門さんの顔が二重…三重に見える…?
何か…目の前が霞んでいくような…
「ちょっ…おい!どうしたんだよ!しっかりしろ!」
珍しく焦っている亜門さんの声が、段々と遠くなっていく。
全身から力が抜けたと同時に、意識がプツリと途切れた。
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