20話

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「ん……」 「起きたか…残念。おはよ。」 「お…はようございます…。」 そっか…私昨日亜門さんと… 何かちょっと照れくさい。 それに、まだ全然実感湧かないなぁ。 「ところで、何が残念なんですか?」 「別に、何でもない。」 絶対何か良からぬ事を考えてたな…。 「そろそろ起きましょうか。朝ご飯の時間過ぎてますし。」 「まだいいだろ。」 「でも…」 「いいから。」 逃がさないとでもいうように抱きしめられて、肌に直接感じる体温が、恥ずかしいけど心地いい。 「そういえば…家政婦の仕事は続けてもいいんでしょうか?」 「…別にもう、家政婦する必要ないだろ。」 「え?」 もしかして、やっぱり家政婦はクビ…? 「もう家政婦じゃなくて、俺の…恋人だろ。」 恋人、か…はっきり言われると、何だか胸の奥の方が擽ったい。 「…じゃあ、別の仕事探さなくちゃですね。」 「別に探さなくていい。」 「そういうわけには…」 「どうしても仕事したいって言うなら…ここに永久就職すれば。」 「え…」 「すぐには決めなくてもいいけど…とりあえずは、今まで通りここで俺の世話しとけばいいだろ。」 ぎゅうぎゅうと抱きしめられるのが、ちょっとだけ苦しい。 もしかして、亜門さんって意外と甘えん坊…? 「…分かりました。じゃあしばらくは、家政婦兼恋人でいます。」 「ん。」 永久就職の話は、亜門さんがどこまで本気なのかまだ分からないけど…。 言葉よりも行動で気持ちを示すタイプらしいから、分かりにくいそれをちゃんと見逃さないようにしなくちゃ。 じゃないと、また鈍感って言われちゃいそう。 まさかこの後、1年も経たない内に本当に永久就職をすることになるなんて、この時の私は夢にも思っていなかった。 「お姉さんがジュエリーデザイナーだなんて聞いてません!」 「言ってないからな。」 あの時、お姉さんに私の事を相談していたなんて知らなかった。 しかも、付き合い始めて半年でお姉さんに指輪をオーダーするなんて、思いもしなかった。 急にお姉さんに会わされて、指のサイズを測られて…こっちは何がなにやらさっぱりだったんだから。 お願いだから、大事な事は全部ちゃんと言葉にしてください! 「翠。」 「何ですかっ。」 「…俺と結婚するだろ?」 「っ…」 「返事は?」 「しま…す。」 「ん。」 言葉は素っ気ないけど、表情が緩んでいるから、結構喜んでくれてるんだろうな。 最近分かったのは、言葉が素っ気ない時程、亜門さんの気持ちが動いている時だという事。 特に嬉しい時や楽しい時は、言葉が素っ気ない。 照れ隠しもあるのかもしれないけど。 「亜門さん。」 「何?」 「大好きですよ。」 「っ…あ、そう。」 だから私は、彼の分も言葉で伝えていこう。 「翠。」 「ん…」 その代わり。 「外でキスとかして、誰かに見られてても知りませんよ。」 「いいだろ別に。したくなったんだからしょうがないだろ。」 こんな風に大事そうに手を握って、キスをして…言葉以外で沢山伝えて欲しい。 「…愛してる。」 「え?」 そして、時々でいいから。 「私も…愛してますよ、亜門さん。」 「聞こえてんじゃねーか…」 言葉でも…ーーー。 ===END===
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