3通目の手紙 & 母親への手紙

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3通目の手紙 & 母親への手紙

ぼくは ホテルのベッドでアディラと抱き合っていた。まるで何事もなかったかのようにアディラを愛撫していた。アディラの歓びに喘ぐ声が耳をくすぐった。 アディラが安らかに眠るベッドの横で 再び ぼくは 手紙をしたためた。 厳しい修行で到達した境地を せめてイッピくんにだけは伝えておきたいと思ったのだ。 https://estar.jp/novels/25700466/viewer?page=4 けれども ぼくは 手紙を書きながら恐るべき事実を確認していた。ぼくの指先は どんどん透明になっていった。 ゆっくり考えて 落ち着いてわかりやすく説明する余裕がなかった。 ぼくは 大慌てで イッピくんへの手紙を書き終えると 母親にも1通くらいは手紙を書いておこうと思った。 自分を探すにあたり とりあえず 一番単純な自分のルーツは母親である。今まで育ててもらった恩もある。 さあ なんて書こうか。 母親への手紙を書き出そうとする頃には すでに 完璧に手の指は消えていた。ペンを持つことができない。 ぼくは いよいよ焦りを感じ始めた。  ぼくは 本当にもう消滅してしまうのかもしれない。 そう 思うと たとえ自分が選んだ生き方だったにせよ 恐怖と寂しさで胸がいっぱいになった。 ぼくは ペンを口に(くわ)えて ようやく 『たすけてくれ』 と平仮名で書いた。渾身の力を込めて住所を書き終えた時には もう腕も脚も消えて 身体さえも消えかけていた。 https://estar.jp/novels/25700466/viewer?page=5 アディラは そんな ぼくの魂に寄り添って 甘くささやいた。 「私と愛し合う道を 選んでくれて ありがとう。たとえ二人 輪廻転生しても 永遠に恋人でいましょう。あなたが毒蜘蛛に生まれ変わるなら 私も毒蜘蛛になる。あなたがモグラになるなら私もモグラになる。あなたが小さなカビになるなら私もカビになる。永遠に あなたは宇宙に溶け込むことはできないと思うけれど・・・・それでいいのよ。私たち 永遠に輪廻転生を繰り返しながら 愛し合う道を選びましょう。」 ぼくは アディラと愛し合う道を選んでしまった。後悔はない。 自分を探し 最後に気づいたこと。それは・・・ 「自分なんて 探しても仕方がない」 という事実。 たった一度の 命。 天から与えられた この 一度きりの命 を 賭けて ぼくは 誰かを 幸せにしたい そう思ったんだ。 「恋人を愛することで 寿命が短くなっても ぼくは 後悔しない」 そう思った。 けれど 母親より先に死んでいく自分の親不孝を考えると せめて 母親より一日でも長く生きられたならという欲がでた。もう一度 日本に戻り 母親の作った食事を食べたい。イッピ君と他愛のない話をしたい。エブリスタに小説を書いて投稿したい。満員電車に詰め込まれて会社に通いたい とすら願った。 だが もう身体さえ どんどん消滅している。ああ ぼくの 愛する ぼくの身体。脚が短いとか毛深いとか 色が浅黒いとか イケメンじゃないとか そんなことは どうだっていい。ぼくの 大切な身体よ! 消えないで! すっかり透明になってしまった ぼく は 愛するアディラと絡み合いながら 自由気ままに 大空の胸に抱かれ 星を映してきらめいている。 今度は 何に輪廻転生するのだろう。   完    
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