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第3話 冬1
秋も終わり、冬である。
二学期の期末テストも終わり、カレンダーは十二月の中旬に突入。辺りの空気は、一気に浮つき始めた。
「まぁ、テストが終わって、もうすぐ冬休みで、正月だ。浮かれるのも仕方がねぇけどな」
「クリスマスをはぶいたのは、わざとですか、先輩?」
呆れて言葉をかけながら、涼汰は土を掘っている。秋の花が意外と長持ちした上にテスト期間が重なって、かなり寒くなった時期に花壇を掘り起こす事になってしまった事が恨めしい。
ただし、今回は山下も一緒に掘っている。
「うわ……マジでキチィな、これ……」
「でしょう?」
他の十一の花壇は、既に作業が済んでいる。……が、今回は誰も、次の冬の花壇への種蒔き作業を開始していない。
「今までの事を考えると、今度は冬の花壇に暗号が埋まってるかもしれねぇからな。俺は……学習する男だ!」
自称学習する男は、期末テストの結果が散々で「もっと勉強しろ」と両親、教師に怒られたという話だが。
そうこうしているうちに、和樹の推理通り、箱が花壇の土中から顔を出した。今回も、今までと同じ箱だ。顔を見合わせ、開けて見る。やっぱりだ。
霧を生みたる葵の学び舎。
朗々たる音響く箱。
横に築きし朱塗りの宮の。
筆と寄り添い睦み合う。
「……出ましたね」
「……出たな」
頷き合い、額を寄せ合って出土したメモ用紙を眺める。しかし。
「……なんか今回の……花壇じゃないっぽくね?」
山下の言葉に、涼汰はうなった。たしかに今回、土だとか根元だとか、埋まっていそうな言葉が見当たらない。
「……どうします?」
「とりあえず、今日は冬の花壇に手ェ付けられないつもりでいたしな。……よし。今日は解散! でもって、俺と浅海は、家に帰って着替えたら、すぐにフェンネルへゴーだ。良いな?」
「わかりました」
他の園芸部員たちも、了解して帰っていく。涼汰と山下もまた、一刻も早く答えを得るべく、家路を急いだ。
◆
フェンネルへ着いて、乾に通されたバックヤードで涼汰と山下が真っ先に見た物。それは、テーブルに突っ伏してうめいている、和樹の姿だった。時折「あー」「うー」という声を発する以外は、ぴくりとも動かない。
「い、乾のおっちゃん……間島さん、どうしたの?」
「あー……うん、まぁ何て言うか……。この時期の大学生が罹りがちな症状と言うかねぇ……」
バックヤードを覗いて苦笑しながらも、乾はレジカウンターで手際よくフラワーアレンジメントを行っている。もうすぐクリスマスである事だし、注文が入っているのかもしれない。
「冬休み直前の大学生って、後期の試験勉強とか、レポートなんかの提出物とか……結構忙しいんだよね。それでヘロヘロになってたところで、昨日ゼミの年末飲み会に行って、調子に乗って、二日酔い。おまけに、風邪も貰ってきちゃったんだってさ」
「それって大丈夫……じゃないっスね。どう見ても」
「……と言うか、あの状態の間島さんから、それだけの情報をよく引き出せたね。乾のおっちゃん……」
「涼汰くんは会った事あるよね? 三宅さん。あの子がさっき、アルバイト先のお店に飾る用の花を買いに来て、教えてくれたんだよ。女の子達の前で良いとこ見せようとして、日本酒とワインとチューハイをチャンポンしてたって」
「うわ、姉ちゃんが悪酔いする時と同じ飲み方だ……」
「ありゃ、たしかに残念なイケメンだな」
結構大きな声で言ったのだが、和樹がこちらを見る事は無い。頭に響いたようで、痛そうにうめいている。
「和樹くんさぁ……さすがに、その調子じゃ仕事は無理でしょ。今日はさっさと帰って、体を休めなよ」
「……ふぁい……」
やっとうめき声以外の声を発した和樹がのろのろと立ち上がり、ロッカーの方へと歩いていく。
「……あの様子だと、今日は暗号解読は無理かなぁ……」
「あぁ、どう見ても無理だね。……せっかく来てもらったのに、ごめんね?」
申し訳なさそうに言う乾に、二人は首を横に振った。そうこうしている間に、着替え終わった和樹がバックヤードから出てくる。
「じゃあ、済みません。今日はこれで失礼します……」
「うん、お大事に。ちゃんとお医者さんにも行くんだよ?」
乾に頷き、涼汰達には「ごめんね」と言って。和樹は家に帰ってしまった。こうなると、何のためにここまで来たのかわからない。
「あー……ところでさ、暗号解読って事は、夏の終わりに解いた暗号の場所、掘ったんだね? また暗号が出てきたんだ」
見せて、と言う乾に、二人は苦い物を食べたような顔になった。「えー……」と声を揃える。
「乾のおっさんに見せてもなぁ……」
「いつも、暗号の意味する事に気付くの、一番遅いですしねぇ……」
二人の言葉に、乾は絶句した。フラワーアレンジメントをする手が止まってしまっている。
「そ、そういう事言わないでよ! 言っておくけど、花の知識だけなら、僕の方が和樹くんよりも詳しいんだからね!」
「そうやって、ムキになっちゃうのもなぁ……」
呆れながら、涼汰はメモ用紙を乾に見せた。予想通り、さっぱりわからん、という顔をしている。
「まぁ、解けないのは予想済みなんだけどさ……乾のおっちゃん、せっかくだから、一つ訊いても良い?」
「ん? 何だい?」
馬鹿にされた事をそれほど気にしていない様子で、乾がにこやかに応じた。そこで涼汰は、メモ用紙の一行目を指差して見せる。
「この『葵』ってさー、植物か何か? ほら、今までの暗号って、両方とも花とか椿とか、植物に関係ある言葉が混ざってたしさ」
「お、そう言えば。今回、植物っぽい漢字ってこれぐらいだもんな」
二人の言葉に、乾は「あぁ」と頷いた。
「そうだよ。葵は植物の事で……花だったら、タチアオイって花があるよ。ほら、あれ」
そう言って、乾は店の奥を指差した。そこは通常よりも室温が高めに設定してある、春や夏の花を冬に置いておくためのコーナーだ。そこに、植木鉢に植えられた花が置いてある。丈は、一メートル以上あるだろうか。ピンクや白の花が、きれいで可愛らしい。
「きれいでしょ? 他に、ハイビスカスやフヨウ、食用のオクラなんかも、同じアオイ科の仲間だよ。元々きれいだった花が園芸用に品種改良されて、更にきれいになっているんだ。日本でも、かなり昔から好まれている植物なんだよ」
「昔って、どれくらい?」
「さぁ……徳川家の家紋が葵だし、遅くても江戸時代が始まる頃にはもう日本にあった事になるよねぇ。……いや、たしかもっと古かったよ。奈良だか平安だかの時代の物語に、葵って言葉が出てきていたらしいし。もっとも、最初は観賞用じゃなかったみたいだけどね。花より葉がメインだったのかな?」
こういう話は、それこそ文学ゼミ学生の和樹の専門なのだが……と、乾は和樹が去っていったドアを恨めしげに眺めている。
「奈良か平安かぁ。そういや、こないだの暗号も、平安絡みだったよな」
「あれは平安時代じゃなくて、平安神宮でしたけどね」
ひとしきり喋ってから、三人揃って腕組みをし、うなる。
「わかんねぇなぁ……」
「やっぱり、間島さんが元気になってから出直しましょうよ、先輩」
「けど、元気になっても、怒涛のレポートアンド試験勉強期間は一月いっぱいぐらいまで続くよ?」
「げっ……そんなに待ってられねぇよ。冬の花壇、何も植えずに放置してあるんだし」
山下の顔がひきつった。たしかに、これから一ヶ月半、何も植えずに放置しておくというのは、あまりよろしくない。
「じゃあ、今年の冬はうちの店から鉢植えの花を大量に買っていって、花壇の前に並べておくっていうのはどう? 顔見知り価格で、お安くしておくよ?」
「中学校の園芸部に、鉢植えばっかりたくさん買えるような予算は無いよ。乾のおっちゃん……」
「高校でも無いと思うよ」
「わかって言ってたんスか……」
あははと笑って、乾は手を振った。
「鉢植えは冗談だけど、買いたい花があればおまけしてあげるよ? 卒業式の時とか、先輩に渡す花が要ったりするでしょ?」
「そうっスね。……じゃあ、その時には、お願いします」
そう言って、山下は頭を下げた。そのままなんとなく、涼汰と山下は店の外に出てしまう。
「今日は、これ以上ここにいても暗号は解けそうにねぇなぁ……」
「ですね。……どうしましょう?」
「ま、そうだな。間島さんが一月まで忙しいってんなら、迷惑かけるわけにもいかねぇし。なんとか俺達だけで、頑張ってみるしかねぇか」
「……冬の花壇、どうします?」
「明日、改めて作業する。解読の結果、冬の花壇に埋まっている事がわかったとしたら……うん。そん時は、二月下旬までお預けだな」
「……二月下旬って、学年末テストがありますけど……」
涼汰の不安げな言葉に、山下は鼻息荒く笑って見せた。
「関係無ぇよ、そんな事!」
頼もしいが、この先輩は来年、受験は大丈夫なのだろうか。
◆
家に帰ると、手洗いうがいだけ済ませて、涼汰はベッドに転がった。前回に引き続き、今回もまた、想定外だ。まさか、一ヶ月半も和樹が身動きが取れない状況になるとは思ってもいなかった。……と言うか、風邪と試験はともかく、二日酔いは想定していなかった。
「どうしたもんかなー……」
ごろんごろんとベッドの上で転がりながら考えるが、何もひらめかない。一旦考えるのをやめるか……と考え、涼汰はベッドから立ち上がる。マンガでも読もうかと本棚まで歩いたところで、ドアが開いた。海津だ。
「姉ちゃん……俺にはノックして返事があるまで待てとか言っておきながら……」
「何、文句あんの?」
「……無いです」
縮こまった涼汰を前にして、海津は勝ち誇ったように腕組みをした。
「それで……何の用?」
「あぁ、そうそう。私、今からゼミの忘年会で出掛けるからさ。夜九時からのドラマ、録画しといてよ」
「はぁ? 予約していけば良いじゃんか」
「今お母さんが、録画しといた昼ドラ観てんの。アレを邪魔して録画予約する勇気、あんたにある?」
「……無いです」
二度目の「無いです」に、海津は満足げに頷いた。
「……って言うかさ、姉ちゃん。姉ちゃんは、レポートとか試験勉強とか、良いわけ? 例の花屋の大学生、それで死にかけてたよ?」
実際には、二日酔いと風邪で死にかけていたわけだが。海津は、鼻で笑った。
「普段から真面目に授業を受けてれば、レポートも試験も、どうってこたぁ無いわよ。大学の試験やレポートなんてねぇ、教授の性格や好みさえ把握しておけば、八割はできたも同然なんだから」
さすがにその数字は盛っているだろうと思うが、口には出さない。出したところで、やり込められるのは目に見えている。
「はいはい、俺が悪うございました。録画は引き受けたから、安心していってらっしゃい。こないだみたいに悪酔いすんなよ」
「今日は大丈夫よー。お酒よりも、料理がメインの店だから。知ってる? 居酒屋、平安絵巻。内装が平安時代風で、料理も上品で。何より店員さんが全員平安貴公子のかっこうしてて、眼福なのよー……って、あんた、歴史は苦手だったか」
「平安……」
ふと、フェンネルで乾や山下と交わした会話を思い出した。
「姉ちゃん、平安時代か奈良時代でさ。葵って花が出てくる物語って何か知ってる?」
「は?」
突然の質問に、海津は顔をしかめた。
「何、急に。って言うか、奈良時代に物語なんて無いわよ。平安時代を舞台にした、竹取物語。知ってるでしょ? かぐや姫の話。あれが日本最古の物語だって言われてるんだから」
「じゃあ、平安時代は?」
今度は、少しだけ考えてくれた。
「花が出てくるかは知らないけど、葵って呼ばれてる人なら源氏物語に出てくるでしょ、たしか」
「そうなの? その葵って人、どんな人? 話のどの辺で出てくる?」
「知らないわよ、読んだ事無いもの。それぐらい、自分で調べな」
そう言って海津は、階段を指差す。階段の下には居間があり、居間にはインターネットを利用できるパソコンが置いてある。
「じゃ、録画頼んだからね」
それだけ言い残すと、海津はさっさと出掛けてしまった。涼汰は居間に降り、昼ドラの録画を観ている母の横でパソコンを立ち上げる。インターネットに接続して、さっそく源氏物語について調べた。調べるうちに、次第に心臓が高鳴っていく。
「そうか……そうなんだ……わかった……!」
知らず知らずのうちにもれ出た言葉に、ドラマを観ていた母が不思議そうな顔をして振り向いた。
◆
「おい、わかったって本当か!?」
翌日。冬の花壇に種を蒔く為に集まった場で、涼汰は山下に打ち明けた。西の花壇で発見した暗号が、解けたかもしれないという事を。
「やるじゃねぇか、間島さんの助け無しで解くなんて! ……で、その場所は冬の花壇じゃなくて良いんだな?」
「はい」
頷きながら、涼汰は作業を開始した。改まって喋ろうとすると、緊張してしまう。種蒔き作業や苗植え作業をしながら話した方が気楽で良いだろう。
話の切り出し方は、和樹にならう事にした。
「えーっと、まず……今回の暗号は、こんな文章でしたよね?」
霧を生みたる葵の学び舎。
朗々たる音響く箱。
横に築きし朱塗りの宮の。
筆と寄り添い睦み合う。
「おう。また、初っ端からわけわかんねぇんだよな。何だよ、学び舎って」
「学び舎っていうのは、勉強をする場所って意味らしいですよ。国語辞典にのっていました。つまり、俺達の学校で言うなら校舎って事になります」
へぇ、と、感心したように山下が呟いた。
「ちゃんと調べたんだな。……って事は、あれか。今回の目的のブツは、校舎内のどっかにあるって事か。教室とか」
「そうなります」
「しっかしなぁ……」
そう言って、山下はうなった。
「葵の教室って何だよ? ウチの学校に、葵先生なんていたか?」
「それなんですけどね」
言いながら、涼汰は土に穴を掘った。種を蒔くだけだから、それほど深く掘る必要は無い。
「昨日、姉ちゃんとの会話で知ったんですけど……源氏物語ってあるじゃないですか。平安時代に書かれたっていう。あれに、葵って呼ばれてる女の人が出てくるらしいんですよ」
「ほうほう。……んで? その葵ちゃんは、そのなんちゃら物語の中で何をするキャラクターなんだ?」
「えっと、たしか……」
種を穴に落とし入れ、軽く土をかぶせながら、昨日調べた内容を思い出す。
「主人公の光源氏の奥さんで……」
「ん? なんか同じような名前のアイドルグループいたよな? 母ちゃんが大ファンだったらしくって、うちにCDあったけど……そんな昔からあるグループなのか? 踏襲制?」
「……多分、違うかと……」
本当に、この先輩は来年受験生なのだろうか。ほんの少しだけ心配になりながら、新たな穴を掘る。
「えっと……それで、その葵さんなんですけどね。光源氏の奥さんで、夕霧って名前の息子を産んだらしいです」
「……ん? 葵で、夕霧……?」
「はい。暗号の一行目……『霧を生みたる葵の学び舎』でしたよね? だから、この文章は源氏物語の葵の事で良いんだと思います」
なるほどな、と山下は頷いた。
「けど、結局わからないままだぞ。葵ちゃんの教室ってどこだよ?」
「それは、今から説明しますって」
新しい穴に種を落として、土をかぶせた。
「調べてみたら、源氏物語は全部で五十四の話があって、それぞれにサブタイトルがつけられているそうです。それで、その中には葵、ってタイトルもありました」
「おっ! じゃあ、その葵の話が第何話かってのがポイントになるんだな?」
「はい。ちなみに、第九帖でした」
「九……」
呟いて、山下は顔をしかめた。
「おい、九って……。ウチの学校、各学年五組までしか無ぇぞ? 数字の付く教室なんて、他に無ぇし……」
「それで終わりじゃないですよ。教室に付く数字は、クラスの番号だけじゃないですし」
「へ?」
間抜けな顔をする山下に、涼汰は苦笑して見せた。
「先輩、さっき自分で言ったじゃないですか。教室は五組まであって、それが三学年分あるんですよ?」
「あ。そうか……って事は……一年一組から順番に数字を振っていって、九番目のクラス……二年四組の教室か?」
「それ……先輩のクラスだったと思いますけど、二年四組に朱塗りの宮とか呼べそうな何かってあります?」
「……無ぇな。クモの巣ならあるけど」
「掃除しましょうよ」
「どうせもうすぐ年末の大掃除だ。グダグダ言うな」
しばしの間黙り込み、涼汰はまた新しく穴を掘り、種を落とした。土をかぶせてやりながら、次の言葉を探す。
「そもそも、一年一組から数えれば二年四組は九番目ですけど、後の三年五組から数え始めたら七番目じゃないですか。……そうじゃなくて、もっと単純に……その教室だけで数字を出す方法があるじゃないですか」
「その教室だけで……あぁ、学年の数字と、クラスの数字を足すのか?」
「いえ、それだと、一番大きい数字でも三年五組の八ですから、九の教室は無い事になってしまいます。そうじゃなくて……」
「……かけ算か」
納得したという声を発しながら、山下はざっくりと穴を掘った。涼汰も、新たに穴を掘る。
「一年一組は、一かける一で、一。二年四組は、二かける四で、八。三年五組なら、三×五で、十五。じゃあ、答が九になるクラスは……」
「…………三年三組しか無ぇな」
考える時間がやや長かったような気がするのが非常に気になるところだが、そこに突っ込んでいては話が進まない。涼汰は、頷いた。
「二行目以降は、実際に教室を見てみないとわかりませんが……少なくとも、三年三組の教室にある事だけは間違い無いんじゃないかと思います。ですから、今日この後に、三年三組の教室に……」
「あー、それは駄目だ」
意気込む涼汰の目の前で、山下はひらひらと手を振った。
「今日は日曜だから、先生達もほとんど来てねぇし。そもそも、何をするかもわかんねぇのに、一年や二年に三年三組の教室の鍵を貸してくれたりなんかしねぇよ」
「……じゃあ、平日の放課後に」
「あ、それはもっと無理」
山下は、種に土をかぶせながら苦笑した。
「お前……わかってるか? 三年生は今、受験戦争の真っただ中だぞ。ただでさえ殺気立ってる中に、のんきな顔した一年や二年が入り込んで家探しなんて始めたら、ぜってーブチ切れるヤツがいる」
「じゃあ……どうすれば……」
困った顔をする涼汰の顔を、山下は手を止めて見た。
「そりゃ……三年生の受験が落ち着いた頃を狙うしかないだろ。聞いた話だと……二月の下旬には、私立高校で決めちまう先輩が半数くらいはいるから、そのぐらいだろうなぁ」
言ってから、山下は「あ」と呟いた。
「結局、次を見付ける事ができるのは二月の下旬になるのかぁ……」
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