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いつからか、君の為に歌う様になった。
君の流すその透明な涙の理由を知りたかった。
今日こそは聞きたい...話したいと思う。
「ありがとうございました!」
パチパチパチパチ...
「ねぇ、ちょっと待って!」
その声が聞こえていないのか、君は涙を拭いながら帰って行ってしまう。必死で手を伸ばし、君の細い腕をパッと掴んだ。待ってよ!
君は驚いた顔をして振り向いた。まだ涙目の瞳がまあるくなる。
「いつも来てくれてありがとう。何で泣いてるの?」
聞きたい事を早速聞いてしまった。
でも...君からの返事はない。
首を傾げて目をまあるくするだけ。
口をパクパクしながら、鞄から小さなノートを出した。
『私は耳が全く聞こえないんです。このノートに聞きたい事を書いて下さい。』
えっ?耳が...聞こえない?
それなのに、僕の歌声を聞きに来てくれてたの?
『君に僕の歌声は届いていますか?』
『はい、ちゃんと届いています。いつも。』
『なぜ泣いているの?』
『あなたの歌声は素敵です。聞こえなくても、
心に響き渡り...語りかけてくる。胸がギュッとなって、切なくなるんです。だから涙が溢れる。』
僕の歌声がそんな風に届いているなんて...。
『あなたの歌が好きです。』
『ありがとう。また聴きに来て下さい。』
君は頷き、優しくにっこりと微笑んだ。
その笑顔に胸が高鳴り、
僕はその笑顔の為に歌いたいと思った。
今日も僕は舞台に立ち、マイクを握り締める。
たとえ君に僕の声が届かなくても、
歌い続けたい。
君の心に届け!
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