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キャバ嬢が作る最高の一杯
【1】
会社を出たのは二十二時を過ぎた頃だった。
引き継ぎ用のマニュアル作りや、デスクの整理をしていたらずいぶん遅くなってしまった。パソコンを長時間見ていたせいで月が霞んで見えるし、首や肩を回せばゴリゴリと凝り固まった音がする。
(部屋の荷物を纏めないといけないけど、明日でいいか)
やることは山積みだが、今はすぐにでも部屋のベットに倒れ込みたい。
肉体的にも精神的も疲労困憊の体に鞭打って、引きずるように最寄り駅へと向かう。
薄暗い駅のホームには自分を含めて、片手で数えられる程の人数しかいない。各々が自由に電車が来るまでの時間を潰している。俺はアナウンスを聞き流しながら、何も考えず、ぼんやり佇んでいた。そんな駅ホームの静寂を破ったのは、酔っぱらいの男と若い女性の声だった。
「君、『夢現』のアヤちゃんだよね!」
「違います!人違いです!」
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