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その時、かさかさ、と、小さな音がした。
僕たちの通ってきた獣道を、さくさく、とてとて、誰かが歩く音がする。
百合子さんと僕は振り向いた。
そこには、小さな白兎が一羽立っていた。
百合子さんは、「よく来てくれたね」と、囁くような声で言った。
兎は首をふる。
百合子さんホオズキを手渡すと、兎は潰さないように、口にそっとくわえた。
兎は、池のほとりに、僕と百合子さんの間をすり抜け、跳ねて移動する。
すると、すっと僕の後ろから蛍が飛んでいった。
そしてホオズキの上に乗り、瞬いた。
明かりを灯したように見えるホオズキを、兎はじっとくわえていた。
僕も、何となくその姿から目が離せなかった。
一瞬、池の上に波紋が広がった。
池の水の上に、半透明に透けた茶色の兎が立っていた。
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