僕と魔女の夏の思い出

17/22
前へ
/22ページ
次へ
 その時、かさかさ、と、小さな音がした。  僕たちの通ってきた獣道を、さくさく、とてとて、誰かが歩く音がする。  百合子さんと僕は振り向いた。  そこには、小さな白兎が一羽立っていた。  百合子さんは、「よく来てくれたね」と、囁くような声で言った。  兎は首をふる。  百合子さんホオズキを手渡すと、兎は潰さないように、口にそっとくわえた。  兎は、池のほとりに、僕と百合子さんの間をすり抜け、跳ねて移動する。  すると、すっと僕の後ろから蛍が飛んでいった。  そしてホオズキの上に乗り、瞬いた。 明かりを灯したように見えるホオズキを、兎はじっとくわえていた。 僕も、何となくその姿から目が離せなかった。 一瞬、池の上に波紋が広がった。 池の水の上に、半透明に透けた茶色の兎が立っていた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加