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4 勝手にベッドに入ってくるな
朝、目が覚めるとなぜかベッドが狭かった。
眞樹はもぞもぞと動きながらぼんやりした頭で理由を考え、消した目覚まし時計をベッドボードに置くと、べったりと背中にくっついてくる体を剥がそうとした。
おまえか。
年齢がヒトケタのころからよく抱き枕にされてきた。もう十分でかい男ふたりになったのに、彼にとって自分はいつまでも小さな弟なのだろうか。むかっとする。
「おい、起きろ!」
うなじに柔らかな寝息がかかってくるのにいらっとして、眞樹はそのまま頭を後ろに倒した。後頭部がごつっと硬いものに当たる。
「いったー……」
衝撃に、寝ぼけ声で春希が呻く。
「……帰ったの二時半なんだから、もう少し寝かせてくれても……」
情けなさそうにつぶやき、まだ寝ようとするのかごそごそと体勢を変えてくる。
体に乗っていた腕を掴んで後ろに投げ、眞樹はようやく自由を取り戻した。
「だったら自分の部屋で寝ろ」
「ベッド冷たいから嫌なんだよ」
「知るか」
もう夏になりかかっているというのにどういう理屈なんだ。
起き上がりついでに掛布団を剥いでやると、きゅっと丸まって春希が腰のあたりにくっついてきた。着替えもしていない、出て行ったままの格好で呆れるしかない。
「おい、セーターに毛玉ができるだろ。脱げ」
「寒い……」
「嘘つけ離れろ俺は暑いわ」
飲んで帰ってきてそのままか。自堕落な大学生だ。
そのまま頭上をまたいでベッドを降りると、春希は掛布団をまた元通りに掛け直そうと手探りで端を探していた。朝日の中でそれでもまだ艶やかな赤茶の髪がうねっている。
「帰らないんじゃなかったのかよ」
彼のせいで全身が強張っていて、眞樹はぐぐっと全身を伸ばした。
「デートの途中で泣かれちゃって、泊めてもらえなかったんだよ。だからゼミの友達呼んで送ってもらった。なんでかいつもこうなるんだよな……おかしいなあ……」
しょぼしょぼと覇気のない声でつぶやき、布団の隙間からぼんやり見上げてくる。
「いいや。眞樹に慰めてもらうから」
「慰めるわけねえ自業自得だろ!」
はい撫でて、と言わんばかりに差し出された頭に、枕を投げつける。
ふざけんな。彼のせいでどれだけこっちがとばっちりを食っているか。
「デート中なのに逆ナンされたとか、別れた女が相談があるからふたりきりで飲もうとかいってほいほいついていくとか、兄貴は外面良すぎるし八方美人なんだよ!」
「昨日はあなたは私なんていなくても平気なんでしょうと言われた」
「……あああ……」
その彼女も気の毒に。この男はファッションとして連れ歩くにはいいかもしれないが、心のうちは見せてくれない薄情さがあるから、次第に愛されてるか不安になってしまうタイプだ。
昔はこうじゃなかった、から、眞樹は受け入れられるが、こうなったきっかけを知らなければ離れる選択になるのは仕方がない。
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