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1話 視線
魔王城の中でも、とびきり危険と言われる八柱居住区。
中級魔族が調子に乗ってやってくれば、命はない。
「……最近、妙な視線を感じるんすよね」
八柱のひとりであるノゾミの世話係であるフジは、その仕事を全うするため、城内を歩き回ることも多い。
最初こそ、魔力をほとんど持たない人間というだけで、嫌がらせを罵声を浴びせられたものだが。
「まぁ、少しまともな奴なら、お前さんには関わりたくないだろうよ」
ヘクターがいつものことではあるがため息をつく。
八柱は力こそ絶大だが、魔王に忠誠を誓っているわけでもなく、過去に魔王軍を甚大な被害を被らせたものもいる。
ノゾミは八柱の中で最も最近に魔王城に攻め込み、魔王と対峙した。そして、八柱の一柱を殺害した。
そんなノゾミの世話係など、関わりたくはない。
「まぁ、魔族の中には呪術が得意な奴もいるからな。視線で呪い殺すことができる奴もいるから、気を付けるんだぞ」
ヘクター自身、魔王軍最高幹部である三騎士のひとりであり、優遇されている立場の人間だが、人間であることや温厚な性格から魔族から疎まれることも多い。
そのため、身の安全を優先し、魔王城へ滞在する際には必ずノゾミの部屋にいる。
「というわけで、幽霊探しだ!」
騒々しく扉を開けて入ってきたのは、八柱であり三騎士でもある、大魔女キルケゴーン。
後ろには、ノゾミにカリノ、マルスもいた。
「フジ、お茶。冷たいの」
「あ、はい」
「あぁ、私たちにも。茶菓子は私が用意しよう。フジ、食べたいものはないかい? 遠慮なく言うと言い」
優しい笑顔と共に、キルケゴーンは杖を振った。
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