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第13話 ──怪物
『……くっくっ、どうですか? 人間。
これが“帽子屋”の本当の姿ですよ……まぁ、2度と元には戻れないのが玉に瑕ですがねぇ』
「お前……人間の意思が残っているのか……!」
『えぇ、勿論。理性を失いただ暴れるだけの怪物じゃあ、美しくないでしょう? そんなモノには、私はならない。
圧倒的な力、圧倒的な知性を兼ね備えたこの姿こそ! 最高にして最強の生命体なのですよ! ハァーッハッハッハッハッハァッ!!』
──なにかの童話で登場した、“ジャバウォック”という竜の怪物に似た姿の“帽子屋”は、その姿のまま高笑いを上げる。
そして、また長い首をもたげるとどこか得意気に顎を動かす。
『ンふぅ……この姿なら、精霊としての攻撃も、直接破壊す攻撃も可能。貴方の頼みの綱であった白い蝶も、今の私にとっては塵芥に等しい……。
勿論、私が張った“領域”も未だ健在……つまり外部からの干渉は不可能。誰も助けには来ませんよ、くっくっ……。
さぁ人間。なにか言い残すことはあるか? 私を愚弄した罪、何百倍にも増して返してやりますよ……ッ!』
怪物となった“帽子屋”はそう言うや耳をつんざくような咆哮を上げ、牙を剥き出し、羽根を広げ、尾をしならせ、爪を鳴らす。
──まるで、どれでも殺す準備ができている。とでも言わんばかりに。
修也は、バイザーの奥の瞳を真っ直ぐ怪物に向けたまま口を開かない。
「修也……」と弱々しく呟くのは、へたりこんで立ち上がれない有利栖だ。僅かな希望にすがるかのように、コートを掴む手に心なしか力が籠る。
──不意に、修也はハァとため息を1つ、諦めたように肩を竦め口を開いた。
「……できるなら、“本気”は出したくなかったんだけどな」
『……なに?』
修也の呟きに、怪物── “帽子屋”はその醜悪な顎を動かし爛々と赤く輝く瞳を修也の顔へと近付ける。
どこか余裕すら見える修也のその様子に「修也……?」と首を傾げる有利栖。
修也は少し振り返り口元だけで有利栖に笑みを見せると、すぐに“帽子屋”へと向き直った。
そして──挑発的な笑みと共に拳銃を持つ右手を“帽子屋”へ向ける。
拳銃を向けられた“帽子屋”は、その赤い瞳を瞬かせると、その口からくつくつと地鳴りのように低い笑い声を漏らす。
『くっくっ……今更そんな拳銃で、なにがデキるのですか……?』
「……さぁな。その詰まってなさそうな脳ミソで考えてみたらどうだ?」
“帽子屋”の言葉をそう軽くあしらい、拳銃を構えたまま笑みを深める修也。
そんな修也の態度が癇に障ったのか『なんだと……』と眼と眼の間に皺を寄せる“帽子屋”。
──だが、次の瞬間。その赤い瞳が驚愕に見開かれることになった。
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