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第2話 ──白い蝶
「ああー……つっかれたぁ……」
──やはり、授業中に寝続けるのは良くないらしい。
放課後、有利栖は最近の授業中の様子を耳にしたらしい担任教師に呼び出されていた。
少しの説教の後に体調や身辺の状況を色々聞かれ──解放された頃には、時計の針は既に18時を回っていた。
茜色に染まった西の空を背に、有利栖は薄暗い住宅街を1人で歩く。
学校から家までは歩いて片道15分程度なので、そこまで長い距離ではない。
──ふと、右肩に気配を感じる。
触れてみると、雪のように白い1匹のモンシロチョウが、呑気に羽根を伸ばしていた。
「……あなたは、だれ? 普通のチョウチョじゃ……ないよね?」
モンシロチョウの頭部に左手の人差し指で触れながら、有利栖はそう訪ねる──が、ゆらゆらと羽根を揺らすだけで、純白のモンシロチョウからはなにも答えは返って来ない。
有利栖は思わずため息をつき、星が瞬きだした空を見上げた。
「ねぇ、兎月……。あなたが言ってる“おねがい”って、なに……?
このチョウチョと、なにか関係があるの……?」
今瞳を閉じても鮮明に脳裏に浮かぶ、夢の中の光景。自分の知らない、月明かりに照らされた病室での白い髪の少女の──兎月の姿。
「おねがい」を聞いて──その言葉で、有栖川は毎日夜中に目を覚ます。なにをどうやっても見続けるその夢のせいで、有利栖は深く眠ることができなくなっていた。
そして──その夢を見始めた頃に、どこからともなく現れた不自然に懐いてくる1匹のモンシロチョウ。
──呟いた言葉は夕焼けの空に溶けて消え、それに答えが返ってくることはない。
有利栖はもう1度ため息をついて、再び家に向かって歩き出した──。
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