第4話 ──銃声

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第4話 ──銃声

 ──喧騒の欠片も聞こえない、気味が悪い程に静まり返った住宅街に、複数発の銃声が轟く。  それを受け、前方に立っていた灰髪の男は反射的に後方へと跳んだ。  そんな中、有利栖は全く状況が掴めずにただ混乱していた──ふ、と。不意に右腕の拘束が緩くなる。  それとほぼ同時に、後方で複数のナニカが地面へと崩れ落ちたような音がした。  有利栖は、恐る恐る後方へと視線を動かす。 「────っっ!!?」  声にならない悲鳴が口から漏れ、有利栖は咄嗟に両手で口を塞いでいた──そこに広がっていた光景を目の当たりにして、むしろこの程度で済んだ自分のメンタルの強さを誉めたいくらいだった。  ──有利栖の後方では、先程まで自分を拘束していた男を含む3人のビジネススーツ姿の男たちが、全員力無く地に伏していた──眉間から溢れ出た自らの血の海に、その身を沈めて。  更にその後方には、まるで闇を切り取ったかのような漆黒のロングコートに身を包み、顔の上半分を仮面のような黒いバイザーで覆った1人の少年。  ──その右手には、銃口から煙を揺らす大型の自動拳銃が握られていた。  そのコート姿を見た灰髪の男は、先程までの笑みを浮かべた表情から一転、氷のような無表情で口を開く。 「…… “機関”の人間ですか。随分と速かったですね?」 「お前ら“血翼(アカハネ)”だけが、その子をマークしていたとでも思っていたのか?」  有利栖にとって知らない単語が入り混じった会話をしながら、コートを纏った少年は拳銃を構えながら歩を進め、有利栖を背に隠すように灰髪の男の前に立ちはだかる。  姿格好は不気味だし手に持つモノも物騒極まりないが、どうやら自分を守ってくれるらしい。  ──なんてことを考えていると、不意に前方を向いたままコートの少年が口を開いた。 「……君は、香美 有利栖で間違いないな?」 「……あ。は、はい」 「よし……目を(つむ)っていろ」  その姿からは想像し難い、少し幼さの残る声色でそう言うコートの少年。  ──間近で声を聞いてみて、もしかしたら自分と同い年くらいなのかも……と、有利栖は心中で呟いた。  有利栖はコートの少年の言葉に頷き、言われた通りぎゅっと目を閉じる──すると「作戦会議は……終わりましたか?」と灰髪の男が口を開いた。 「……その雰囲気から察するに、貴方は“精霊(せいれい)”を持たないようですが。  まさか…… “精霊奏者(エレメンター)”であるこの私に、そんな拳銃(オモチャ)で勝てるつもりで?」 「さあね。それに、俺の任務(しごと)はこの子を保護すること……お前に勝つことじゃない」  コートの少年はそう言いながら左手を懐に突っ込み、なにかを取り出す──目を瞑っていろ、とは言われたもののどうしても様子が気になった有利栖は、こっそり薄目を開き対峙する2人の様子を覗き見る──そして、すぐにそれを後悔することになった。  コートの少年は、取り出した円筒型の爆弾と思わしきそれのピンを指で弾くと、無造作に地面に放り投げる。  ──刹那、(まばゆ)い閃光が辺り一面を真っ白に染めた。  灰髪の男は「閃光弾……っ!?」と声を上げながら、弾かれるように腕で目元を覆う。  薄目を開いていた有利栖は閃光が走った瞬間に慌てて目を閉じた──が、間に合わなかった。まぶたの裏で目がチカチカし、有利栖は顔をしかめる。  しかし、コートの少年はそんな有利栖を構うことなく「一旦退くぞ」と小声で言うや否や、有利栖を横抱き──いわゆるお姫様抱っこ──に抱える。  そして物凄い脚力で跳び上がり、音も無くすぐ隣の民家の屋根に着地した。 「跳んで移動する。しっかり掴まってろ」 「えぇっ!? は──はいっ!」  半ばパニック状態のまま、有利栖は言われるがままに少年の首に両腕を回す。  それを確認したコートの少年は1度頷くと、力強く屋根を蹴り別の屋根へと跳び移った──。  
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