第6話 ──記憶

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第6話 ──記憶

「えっ……な、なんで……っ!?  なんで修也っ、兎月のことを知ってるの!?」  修也の言葉に有利栖は驚愕に目を見開く──気付けば立ち上がり、修也に詰め寄っていた。  修也が兎月を知っていたこともそうだが、なにより兎月のフルネームは有利栖ですら知らないものだったからだ。  ──余程ショックを受けたのか。  有利栖の脳内で、思い出がフラッシュバックする──。  ──有利栖が小学校低学年の頃。  当時、身体の弱かった有利栖が風邪を(こじ)らせて入院した時──すでに入院していた兎月と、初めて出会った。  有利栖と兎月は同じ病室だったこともあって、すぐに仲良くなった。  ──その後、有利栖が退院してからは毎週のようにお見舞いに行く程にまでなっていた。  ──有利栖が中学校に進学したある日。  有利栖は、兎月に自分の家族や真姫を始めとした仲の良い友人を紹介しようと提案した──しかし、兎月は「わたしのことは誰にもいわないで」と、頑なに首を縦に振らなかった。  有利栖は「なんでだろう」と不思議に思ったが、兎月がそう言うのなら……と深くは詮索しなかった。  それから更に月日が経ち──有利栖は高校生となった。  身体も丈夫になり、新しい世界に飛び出していった有利栖と、病院という檻から抜け出せない兎月。  住む世界は全く違えど、それでも2人はかけがえのない親友であり続けた。  ──有利栖が高校生になって間もないある日。  ふと、兎月が口にした言葉。  “わたしには、どうしても叶えたい夢……ううん、“ねがい”があるの。  今はまだひみつだけど……いつか、有利栖にも教えてあげるね”  有利栖は、卯月のその言葉にこう答えた。 「じゃあ、その時は私が!  兎月のその「ねがい」を叶えるために、なんでもお手伝いをしてあげるからね──」  ──そして、今年。  兎月は、静かにこの世を去ってしまった。最後まで、有利栖に「おねがい」を告げぬまま。  それから──有利栖は毎日のように兎月の夢を見るようになった。  最後の「おねがい」を告げようとする度に、現実に引き戻されてしまう──自分の知らない、兎月の姿が映る夢を──……   「────おい! 落ち着け、有利栖!」  「兎月」の名前が出た途端、パニック状態となってしまった有利栖──肩を掴み、揺さぶりながらの修也の声に、ハッと目を瞬かせた。 「あ、れ──え、あ、っご……ごめん」  正気に戻った有利栖は、バイザー越しに自分を見つめる修也に、そう謝罪の言葉を零す。  そして何回か深呼吸を繰り返し、どうにか落ち着きを取り戻したところで、修也は「もう、良いか?」と口を開いた。 「俺が、なぜ白綺 兎月の名前を知っているのか……それを説明するには、まず俺たち“機関”……そして“血翼(アカハネ)”について君に知って貰う必要がある」  修也の言葉に、有利栖は無言で頷く──正直、兎月について急かしたい気持ちもあったが、ぐっと堪えた。 「まずは“機関”からだが……正式名称は“精霊統制機関”。世間には公表されていない、秘密裏に結成された政府直属の組織だ。  主な目的は、精霊を持つ者たち……これを“精霊奏者(エレメンター)”と呼ぶんだが、それらの保護。そして管理。加えて、“精霊奏者”たちが“精霊”の力を間違った方向に使わないように導く……それが俺たちの仕事だ」 「保護……じゃあ、私もその対象ってことなの?」  そう言って首を傾げる有利栖に、修也は「その通り」と頷く。 「しかし、最優先されるのは君の日常生活だ。  だから、“血翼(ヤツら)”が行動を起こすまでは君への措置は監視に留めていたんだ」 「ヤツら……って、さっき私を襲ってきたスーツの男たちだよね。  あの人たちが……その、アカハネ? っていうの?」  有利栖のその言葉に、修也は口元を緩める──笑った、と理解した有利栖は、何故か嬉しい気分になった。 「物分かりがいい子は嫌いじゃないよ、その通りだ。  正式名称は、血契の翼の精霊楽団(Blood Wing Elementer's)……無駄に長いから、俺たちは“血翼(アカハネ)”と呼んでいる。  奴らの目的は、“精霊”の力を武力として行使し、世界を掌中に収める事……その為にはどんな手段も惜しまない、立派なテロ組織さ。  ──現に、世界各国で起こっている近年のテロの内、約3割は“血翼(ヤツら)”の仕業だ」 「さ、3割……そんな危ない人たちが、この国に……」 「そう……そして、その脅威から国を……いや、世界を守る為に、“機関”では精霊奏者(エレメンター)の中でも特に優秀な人材を“血翼(アカハネ)”と戦う為の戦闘員(エージェント)として育成し、組織に置いている……ま、優先されるのは個人の意志だけどね」  自分の知らなかった世界で、そんな争いが起こっていたなんて──と、有利栖は驚きと同時になんともいえない、悲しい気持ちになる。  そして、自分がその世界に既に片足どころか全身を突っ込んでしまっているという事実に、不安を隠しきれなかった。  ──不意に、有利栖の頭に修也の手が置かれる。そして、ぽんぽんっと2回軽く撫でられた。 「なに、不安そうな顔をしているんだ?  安心しろ、戦うのは俺たちの仕事……そして君を日常生活に戻すことが俺の任務だ。  ──有利栖。君が気に病むことはなにもないよ」 「う、うん……アリガト……」  優しい声でそう言われ、有利栖はお礼を言いながら俯いてしまう──自身の不安を的確に拭い去るような修也の言動は、正直いって効果抜群だった。  うるさい程に胸が高鳴る。多分、これ以上ないくらいに頬が紅潮している──有利栖は、ぐるぐると目が回るような感覚を覚えながら「なんでこんな時に、こんなにドキドキするのよぉ~……」と頭を抱えた。  ──そんな有利栖の様子に、修也は頭に疑問符を浮かべ「……大丈夫か?」と首を傾げた。  
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