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ゆっくりとした足取りで、呆然と立ち尽くしている中島の目の前に城崎が歩み寄ってくる。それでもまだ驚きの衝撃が冷めなくて、中島はぽかんと彼を見上げていた。
「……なんで」
「今日バイトだろ。だから待ってた」
でも今日はバイトの終わる時間を伝えていない。……早番で十時や十一時前に帰って来られるときもあるし、終電になるときだってあるのに。今日は結局寄り道をしたから、終電間際で。
「待ってたの? ずっと?」
尋ねれば、いつもなら視線を逸らすだろうところで、城崎は視線をそらさず中島をまっすぐに見つめた。
「待ってた。……早く会いたかったから」
「────俺も」
無意識に声が零れるように落ちていく。
感じ方も考え方もなにもかもが違っても、気持ちが一瞬でも重なったら、一瞬でもつながったら、それはもう本当に──奇跡なんだ。
「俺も早く会いたかった。すぐに会いたかった。一秒でも早く会いたかった」
「バカ」
短く罵倒した声はだけどやわらかくて、中島は泣きたい気持ちになっていた。今すぐ城崎に抱きついて、その胸に顔を埋めたい。……けれどここは駅前で、深夜零時を過ぎていても客引きやなんだとぽつりぽつり行き交う人の姿があって、そうするわけにはいかなくて。
なんだか、ひどく切なく背中が熱くなる。
それが分かったのか、城崎は少し迷ったふうに視線をうろつかせてから、急に手を伸ばして中島の手を取った。
「歩こう」
そのまま強く手を引いて、無言のまま歩き出す。あっけにとられて言葉を失ったまま、中島は城崎の隣に並んでいた。そのまま黙って歩き、いつもの帰り道の最初の角を曲がったところで、ようやく城崎が口を開く。
「……俺は、言葉が足りないから、」
低い声で城崎が言った。
中島はぼんやりと、白い息と一緒に城崎の口から彼の言葉が紡がれるのを見つめた。
「たぶん誤解させたり、嫌な気持ちにさせたりするし、きっとこの先も他人に見られたり、なんか言われたりするのが嫌なのは変えられないと思うけど。……でも、俺は一緒にいたくないとか思ってるわけじゃなくて、もちろん一緒にいたいと思っていて、」
「……うん」
「ただ、どうしたらいいかよく分からなくて」
「────」
城崎も同じように考えていたんだ、と思ったら胸が熱くなって、こらえるように中島はぎゅっと強く城崎の手を握りしめる。
二月の夜は空気が冷たくて、つながった手が一層熱い。
歩いている途中、住宅街の途中にある明るいコンビニ前で女性とすれ違ったけれど、城崎は手を離したりしなかった。
「……前に、おまえがひとつひとつ進みたいって言ったから、俺は、その、きちんと順番に進めていきたいと思ってて、それで」
「順番って、」
「だから、まずきちんとデートして、デートして、それからキスして、それでおまえがキスに慣れて、そういう気持ちになるようなら、……さわったり、他のことも」
「────っ」
城崎の言葉の意味することを理解した瞬間、カアッと全身が熱くなって中島が思わず手を離しそうになって、すかさず城崎がぎゅっと強く手を握り返してきて、それを許さなかった。
「だから! そういうの焦ってしたくないから!」
目を合わせるのが恥ずかしいのか、城崎はまっすぐに前を見ている。
「……おまえが童貞だっつったから、初めてなんだし、しかも男同士だし、そういうのおまえ分かってないだろうし、でも嫌な思いとかさせたくないから、おまえがそういうのきちんと分かって心からしたいって思うようになるまで、ゆっくり進めたくて。……そう思うけど、絶対、おまえが俺の部屋来たら理性なんか保てるわけないし」
だから部屋に呼べなかった。
そういうことだと知って、急に中島は恥ずかしくなってうつむいた。自分はそんなこと想像していなかった。……いや、もちろん全くなにひとつ考えていなかったと言えば嘘になるけれど。
「ごめんな。俺、自分のことで頭いっぱいになって、おまえがどう思ってるか全然考えてなかった」
「違うよ、俺の方こそ!」
悄然とした声で謝られて、反射的に中島は顔をあげていた。
「俺の方こそ、全然なんにも考えてなくて。ただ好きだから一緒にいたいなって。……俺って本当にバカだから、なにが良くてなにがダメかとか分からなくて、城崎の気持ちとか分からないから、そういうので無神経に傷つけたりするのが怖くて。どうしたら城崎の気持ちが分かるかなとか、どうしたらもっと一緒にいられるかなとか、そんなふうにしか考えてなくて」
もっともっと自分から聞けばよかった。城崎の気持ちを聞いて、自分の気持ちを話して、すぐには理解できなくても、焦らずにもっとゆっくり歩み寄るように。
だから中島は恥ずかしくて眼差しを逸らしたけれど、そのまま言葉を続けた。
「……その、それは、キ、キスとかもう一回したいなとかは思ったけど、その先のことは具体的にどうしたらいいか考えられなくて。とりあえず一緒にいたらそのうちなんとかなるかな、ぐらいにしか考えてなくて。──あ、でも嫌だとかいうんじゃなくて!」
途中でなにを自分でも言いたいのか分からなくなって、中島はうろたえる。
手をつないだまま、こんなことを言っているのはひどく恥ずかしい。だけど言わなければ、またすれ違ってしまいそうで、顔が赤くなっているのを自覚しながら中島は最後まで言葉にした。
「……城崎がそうしたいなら、そういうふうになってもいい、と思ってる、」
「ッ、」
城崎が急に足を止めた。え? と思って隣を見やれば、ひどく困ったような顔をして額に手を当てている。
「……だからおまえは、どうしてそう、試すようなことばかり」
「試すって──そんなつもりは」
「おまえにそのつもりがなくても! 俺にとってはそうなんだよ! 分かってんのか。こっち行ったら俺んちだぞ。……部屋に来たら、理性持たせる気ないから」
気づけば中島の家のすぐそばまで辿りついていて、城崎の言うとおりこの場所で角を曲がれば城崎の部屋に向かうことになる。──それはつまりそういう意味で。
「嫌なら言えよ。無理をさせるつもりはないから」
「────」
そんな選択肢をつきつけるなんてずるい、と中島は思った。答えるのが恥ずかしくて恥ずかしくて、うつむいたまま手を握る。だけど城崎はそれだけじゃ許してくれなかった。
中島、と名前を呼ばれて答えを請われて、小さな声で答える。
「……嫌じゃない」
キスに慣れる──なんて無理だ、と中島は思い知った。
何度キスを交わしても、気持ちは高まるばかりで。
部屋に入ってすぐ玄関先で靴も脱がずに抱きしめられてキスをされた。角度を変えて何度も重ね合わされる唇の優しさに陶然となったところで部屋に導かれ、もどかしげにコートを脱がされてまたキスをした。今度は息ができないくらいに深く、舌を甘く奪われる。奥まで探るようなキスにたまらず中島はすがるように城崎の背中にしがみついた。
着込んだニット越しに城崎の胸板と自らの胸板が重なり、僅かに伝わる身体の硬さと熱さになんだか切なくなる。
身体が熱い。暖房のついていない部屋は外気と同じくらいに冷え込んでいるのに、それすら感じないくらいに熱かった。
「……ん、」
一度離れて、また重なり合う唇。
城崎が背中を抱いていた腕をゆっくりと動かして、片方の腕で腰を抱き、もう一方の手で後ろから中島の太股をとらえた。
「あ……っ」
城崎の腰が少し動いた途端、堅く熱いものがジーンズ越しに下肢に擦られるように当たって、思わず中島はキスの合間に声を漏らしていた。
それがなんなのか、男同士だからよく分かっている。
恥ずかしさが一気に駆けあがって、中島はつい城崎の腕の中から逃げるように背中を反らしていた。濡れた音をたてて唇が離れ、その生々しさに身体を震わせる。
電気もつけずにもつれ込んだ部屋は暗いままで、カーテンの隙間から窓の向こうの遠い外灯の明かりが僅かに射し込み、薄ぼんやりと目の前の相手の姿を浮かび上がらせていた。
城崎は中島の腰を抱いたまま、無言で見下ろしている。
なにも言葉がないのが、彼の真摯さと熱情をいっそう伝えてくるようで、ひどくいたたまれなく、中島はどこを見ていいのか分からずに眼差しをうろうろと彷徨わせた。
──欲望が。
部屋の空気に溶け込んでいる。
その中にいるだけで甘く酔って目眩がしそうだった。ふと城崎が腕を持ち上げて、中島の後ろ髪に指を絡めた。そのまま引き寄せられるように顔を伏せ、中島の耳元に唇を寄せて囁き込む。
「……服、脱がせていいか」
「っ、」
その声のあまりの艶っぽさに、ほとんど反射的に中島は城崎の胸を押し退けていた。
「エロいよッ、馬鹿!」
「……エロくしなくてどうするんだよ」
「そ、うだけど」
その呆れたような、照れ隠しのような、少し掠れた声にまた羞恥が全身に走り、恥ずかしくて死にそう、と中島は真っ赤になった顔をうつむけて呟いた。
まるで身体の奥から痺れるような感じがする。……一緒にいたいと思っていたけれど、それがこんなにも甘酸っぱくて恥ずかしくてたまらないことだとは想像していなかった。
薄暗闇の中で城崎の両手がそっと伸びるのが分かった。指先が両頬にそっと触れ、ゆっくりと顎のラインを辿っていき、その仕草にどうしようもなく促されて中島は顔をあげる。
吐息がふれるほどの近さで、まっすぐに見つめてくる城崎の目と目が合う。
「中島。……服、脱がせて、いいか」
「っ、」
囁くような声にぞくりと背筋が震え、たまらず中島は手を伸ばして城崎の腕を掴んでいた。
彼の欲望に向き合えば、自分の欲望をさらけだされるのだ。
──相手を求める心が同じ方向を向いて、まっすぐにつながる。
そのかけがえのない奇跡に、泣きたいような気持ちが湧いて、
「も、んなこと、聞くなよ……っ」
中島は掴んだ腕を強く引き寄せた。
……中島のつたない想像はまったく無意味だった。
男が気持ちよくなる個所なんて決まっている。だからきっとそこを触ったり擦ったりするんだろうな、と思っていた。そう、例えるならマスターベーションの延長のように。
けれど実際は違った。そんなものではなかった。
布一枚もまとわず全身余すところなく見つめられ、さわられる。首筋にキスを落とされれば身体が震え、手のひらで腹を撫でられれば吐息が洩れた。両胸の突起を指先でしつこいくらいに弄られれば、女のような喘ぎ声が口をつく。
さわられる前から下肢は興奮にかたちを変えて、先端からはしたなく蜜を零した。
まるで全身が性感帯になったかのようで、もちろんこんなこと、今まで想像もしたことがなかった。
「や、城崎……っ、も、苦し……」
焦らされるとこんなにも身体の奥から切ない感じがこみ上げてくるなんて知らなかった。
ベッドの上で横向きに後ろから抱かれ、下肢の興奮を目立たせるように片膝を立てさせられて、中島は泣きたくなった。
「……さわっていい?」
耳元で低く訊ねられて、羞恥を抱くより先に中島は夢中でこくこくと頷いている。
ほしい。さわってほしい。さわって擦って、気持ちよくしてほしい……!
「ふっ、あ……っ」
城崎の大きな手のひらに包み込まれた途端、びくりと中島は小さく腰を振っていた。先端を指先で撫でられ、零れた蜜を全体に塗りこめるようにゆっくりと擦られる。
「ん、……んっ」
たまらず洩れそうになる声を抑えようと中島は口に手の甲を押し当てた。と、それを宥めるように、ゆっくりと擦り上げる手を止めないまま、城崎が中島のこめかみに唇を落とした。
「声、こらえるなよ」
「だっ、て、へん、な声、出る……っ」
「変じゃないよ。……すごく、いい」
耳に直接囁き込む城崎の声がひどくいやらしくて、中島はそれに抗うように首を横に振る。
「んな、女み、たいな、の、変っ、変だ、もんっ、……あっ、や、あ、んっ」
言っているそばから城崎が手を動かすスピードをあげてきて、それに合わせて中島は艶めいた泣き声をあげた。
急激に高まる射精感に無意識に中島の腰が揺れる。なにかにすがりたくて手を伸ばし、中島は自らの腰を抱く城崎の腕を掴んでいた。身体の奥から湧きあがる衝動にたまらず指をたて──。
「っ、あ、……あッ」
次の瞬間には甘い嬌声をあげて、城崎の手の中に熱い精を吐き出していた。
弛緩する中島の身体を抱きとめながら、城崎が手の中に吐き出された熱い体液をまたぬめり代わりにするように下肢に絡ませてきて、乱れた息の合間に中島は背後の恋人を詰った。
「っ、……っ、……も、城崎、エロい……っ」
「今のは、おまえがエロいんだろ。……なあ、中島、もう少し足開けるか?」
え? と中島が思ったときには身体をひっくり返されて、あっという間にベットに仰向けに転がり、両腿を抱えられるように大きく足を開かされていた。たとえ電気のついていない薄暗い部屋でも、こんなふうに身体を開かれるのは恥ずかしくて、身体をよじる。
「や、……んなの、恥、ずかしい……っ」
「……うん、ごめん。でも、許して」
中島の身体の上で、両足を抱えた城崎がふとベッドヘッドに手を伸ばした。なにかを探るような間があって、その僅かな間に不安になって中島が眼差しで城崎の行為を追った。なにか小さなボトルのようなものを手にしていて、それを──中島の下肢に垂らす。
なに、と中島が問おうとしたときには、城崎の指がその液体のぬめりを絡めながら、行き先を探り当てていた。
「っ、あ、ちょっ、……っ」
「ごめん。いきなりはしない。いきなりはしないから。今日はせめて指だけ入れさせて」
熱っぽくこいねがうように言いながら、城崎は中島の返答を待たずに、後ろに指を押し入れる。
「あッ、や……っ、なに、なん、……っ」
「おまえの中、感じさせて。奥入りたいけど、我慢するから」
囁くように言いながら、城崎は中島の身体にもぐりこませた指をゆっくりと抜き差しし始めた。直接垂らされたローションが奥に入り込み、くぷくぷと音を立てる。
城崎の指に身体の奥を犯されながら、その動きに合わせて中島はたまらず声をあげていた。
「あ、やっ、なに、それ、やだっ、や」
「うん、ごめん。……でもおまえの中、熱くて気持ちいい」
「──ッ、」
言われた言葉のあまりの恥ずかしさに中島は息を詰めた。
求められて求められて、身体の中を探られる──自分の奥を暴かれる、その感覚。
指を奥に入れたまま、城崎が片方の手で中島の背中を抱きながら身体を伏せて、中島の首筋に顔を埋めてきた。唇が中島の耳朶をかすめて、びくんっと中島はいっそう身体を震わせる。
その震えすら吸い取るように、耳元で城崎が大きく熱い吐息を漏らした。
「次はここに俺、入りたい……」
「そんな、言、わない、でッ、……ふ、あっ」
「……中島、中島、中島」
中島に行為そのものを想像させるように指を何度も出し入れしながら、熱っぽく吐息交じりに何度も名前を呼ぶ。まるで城崎自身もそれを想像しているようで──それがひどく切なくて。
熱くなった身体に翻弄されながら、必死で中島は腕を伸ばし、城崎の背中を抱き寄せていた。
「やだ、やだもう、入れて。お願い。城崎を入れて」
「……バカ、なに言ってんだ」
城崎は優しい声で囁き、泣きそうになっている中島の眦に口づけを落とす。甘く、何度も、子どもをあやすように優しく。
けれど中島は夢中でかぶりを振った。
「だって好き。好きだから。こんなのやだ。なんかやだ」
「……中島」
困ったように城崎が名前を呼んで、一層切なさが胸にこみ上げる。こんな思いになるなんて中島も思っていなかった。こんなふうに──相手のことがどうしようもなく大切に感じるなんて。
痛いとかつらいとかそんなことはどうでもよかった。今、つながりたいのだ。彼の望みに応えたい。熱い彼自身を受け入れたいのだ。彼の欲望を、感情を、気持ちを自分の奥で。
中島は涙に濡れた眼差しのまま、城崎を見やった。
「……おねがい、」
「────ッ」
まるで吐息に消え入るような小さな嘆願に、城崎の理性が吹き飛んだ。
「ぁっ!」
いきなり奥を犯す指を増やされて、中島は声にならない声をあげる。
それからは城崎の餓えるような熱心さに、時間をかけて身体をとろけさせられた。また前をいじられながら、ローションのぬめりを借りて後ろをかき回され、身も世もなく中島は泣いた。
……痛い、苦しい、熱い、でも気持ち良い。気持ち良いけど、やっぱり痛い。
わけのわからない熱に浮かされながらも、それが彼を受け入れる準備なのだと思うと奇妙に胸が高鳴るようで。
「……ごめん、ちょっと痛いかも」
掠れるような声が囁くと同時に指が抜かれ、入り口に濡れた熱いものが当たるのを感じ、中島はぞくりと身体を震わせて、思わず目を閉じていた。
「力、抜いて」
「う、んっ、……あ──んんッ」
ゆっくりと城崎の欲望が自分の身体をこじ開けていく。
息を詰める中島を宥めるようにその腰を優しく抱きながら、城崎が身体を押し進める。お互いの抑えた息だけが部屋に響いていた。
わけの分からないまま、夢中で中島は手を伸ばした。
気づいた城崎が指をからめてその手を捉える。まるで壊れものを扱うように優しい仕草で捉えた手をそっとベッドに押しつけて──。
「──ッ!」
グッと腰をつきあげられた瞬間、中島は叫びをこらえて、城崎の手を強く握りしめていた。
……身体の奥に、熱くて硬い城崎の欲望が埋まっている。
そう分かった途端に感情が弾けて、わっと中島の目から涙が溢れた。
「え!? なに、なんで!? 痛い? きつい? 抜く?」
「ちが、ちがう、そうじゃなくて、」
中島の涙を見た城崎があからさまにうろたえ、腰を引こうとさえして、慌てて中島は首を泣きながら横に振った。
胸の奥がひとつの感情でいっぱいになって、苦しいほどに熱い。
──これが。こんなに。こんなにも。
「……すごく好き、って、思って」
「ッ、」
呟いた次の瞬間には、食らいつくように城崎に唇を塞がれていた。足を抱えられて、奥を抉るように突きあげられる。
「っ、あ、あっ、城崎……城崎ッ」
強く求めてくる抽挿に中島がたまらず泣き声をあげた。城崎の手が中島の下肢に絡み、奥を突くのと同じ激しさで擦り上げてくる。
「やっ、ダメ、それダメッ、またイク、イクから……あ、あ、っ」
「いいよ、イって。俺も……も、イクから、ッ、」
「────ッ」
絶頂に達した瞬間、身体の奥が痺れるように震え、ほとんど同時に城崎がそれまで奥を穿っていた熱を一気に抜いて、中島の腹の上に精を放っていた。
──身体の奥でつながって、自分の気持ちと相手の気持ちが混じり合う。
それは本当にすごいことで。
すごいことで。……すごいことなんだけど、しかし世のカップルはよくこんな恥ずかしいことをやってて普段素知らぬ顔をできるもんだな、なんて中島は思う。
お互いに果てたあと、城崎に求められて啄ばむような優しいキスを交わしているうちに、とろとろと眠気に誘われてしまい、気づいたら朝を迎えていた。
ベッドの中で目を覚まし、後ろから抱きしめられたまま眠っていたことに気づいて、中島は城崎の腕の中で硬直してしまっていた。……衣類は身につけてない。たぶん城崎もそうだというのは背中に触れる肌の感触で分かる。
「……ん、……中島?」
気配を感じて目を覚ましたのか、ふと耳元で城崎の掠れた声が名前を囁いた。それで一気に昨夜の行為を思い出して、中島は全身が熱くなるような思いをした。
想像もしていなかった行為──快感──自らの痴態。
「中島?」
背中で城崎が身じろぎ、背中に触れた肌が擦れて、思わず中島は身体を震わせた。
どうした、とも配そうな声が訊ねてきたけれど、中島は背中を向けて顔をうつむけたまま頭を振った。あんないやらしいことをした後で、普通に顔を合わせられるなんてできない。
少し困惑したような気配があって、それから指先がのびてきて、ベッドにおしつけるように顔をうつむけている中島のこめかみを撫でた。
「なに。なんだよ。な、こっち見ろよ」
「……いやだ」
呻くように返せば、は? と驚いて城崎が問い返してくる。
「いやだってなんだ。なあ、顔、見せろよ」
「やだってば。……あーもー、俺、こんな恥ずかしいことしないっ」
「はあ!?」
ちょっと待て! と慌てふためいて城崎が身体を起こし、抗う中島をほとんど強引に引き起こして仰向かせた。
昨夜と違って朝を迎えた部屋はカーテンの隙間から陽光が射し込み、明るい。こんな明るい中で真っ赤になった顔を見られたくなくて、中島は両手で顔を覆い隠した。
なんで城崎は平気なんだ、と拗ねたいような気持ちで思う。
「しないって、中島、それはどういう……、」
「……こんな恥ずかしいこと、もう、城崎以外の他の誰ともできないよ……」
「っ、」
城崎が目眩を感じたかのように一度天を仰いでから、がっくりと首を折って中島の首筋に頭をうずめた。
「おまえって本当に、どうかと思う」
「……どうかってどういう意味」
「天然。無自覚。無鉄砲。無邪気。バカ……」
悪口を囁き込まれて、なんだよそれ、と両手を外せば、あらわになった中島の顔の横で城崎が小さく笑う。
「──で、最悪に可愛い」
「バカじゃないの!」
詰って、もう一回、中島は両手で顔を覆った。
……付き合うっていうのは本当に難しくて、ときどき苦しくて、恥ずかしくて。すごく得難いものだ、と中島は思う。
分からない。理解できない。こんなにも違う。全然違う。でもそれでいい。
自分は自分で、城崎は城崎で。そのままでいい。それでも求める気持ちは一緒だから。
その奇跡を大切にしたいと強く願って、中島は顔を覆う手を伸ばして城崎の背中を抱きしめた。
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