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歩道に座り込んだケンジの前に黄色い車が停まった。
車のボディには赤い字ででっかく『運転代行サービス』と書いてあった。
サークルの飲み会に参加したあと、ケンジが呼んだのだった。
その車の運転席から女性が降りてきて、ケンジに駆け寄った。
「まいどー。運転代行サービスでーす。」
「ふぉーい、ここ、ここ。」
ケンジはぐにゃりと手を挙げて返事した。
酔いのせいで呂律が回らなかった。
「お客様、お待たせしました。」
「いや、いいよいいよ。さっきまでベロッベロに酔っ払ってましたからね。待っている時間が、ちょうどいい酔い覚ましになりました。」
ケンジはググっとゆっくり立ち上がった。
お酒のせいで力が入らず、よっこい正一となってしまった。
運転代行サービスの女性は支える姿勢になったものの、手を出すのは運転代行サービスとは違うしな、などと考えながら、ケンジが立ち上がり落ち着くのを待ってから頭を下げた。
「ありがとうございます。じゃあ、早速、お客様のお車、運転してまいりますね。」
「はーい、お願いしまーす。・・って、あれ?」
「はい?どうしました?」
ケンジは不思議に思った。
「あなた、ひとり?」
ケンジは女性の乗ってきた車に目をやった。
女性が降りたあとの車の中には誰も乗っていないように見えた。
そんなケンジの心配をよそに、女性はあっけらかんと答えた。
「いいえ、違いますけど。」
え?本当に?どう見ても車の中には人がいなさそうなんですけど、とケンジは驚きつつも、自信満々の返答に安心した。
「そ、そりゃあ、そうですよね。あー、びっくりした。ねえ。あなたが一人だったら、あなたの乗ってきた車、どうするんだって話ですよね。いや、失敬、失敬。」
とケンジが話しているうちに、女性の営業スマイルは崩れて、焦りの表情に変わった。
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