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「あー、しまった!」
ケンジの言葉を聞き終わらないうちに、女性は慌てだした。
「お客様の言う通りですよね。やばーい。どうしよう。」
慌てだした女性を見て、ケンジも焦りだした。
「やばいって、なんで?二人いるんでしょ?」
「ママー。」
今この場に一番ふさわしくない種類の声が聞こえた。
ケンジは声のした方に顔を向けた。
運転代行サービスの車の後部座席。
ありえなさ過ぎてケンジは気づけなかったが、そこにはチャイルドシートが備えつけてあった。
そのチャイルドシートのついている後部座席右側の半分ほど開いたガラス窓を叩いて、子供が「ママー」と叫んでいた。
「ママ?」
ケンジはありえない光景に首を右斜め45度に倒した。
「まあ、マユちゃん、おっきしたの?」
「マユちゃん?おっき?」
ケンジは今度は首を左斜め45度に倒した。
運転代行の女性は後部座席のドアを開けると、潜り込んでチャイルドシートのベルトを外し、子供を抱え、そのままケンジの前に戻ってきた。
「えっと、娘のマユです。」
女性は子供をあやすよう体を上下に揺らしながら、自分の娘をケンジに紹介した。
ケンジは子供を見つめながら、再び首を右斜め45度に倒した。
「なんで、赤ちゃんがいるの?」
「赤ちゃんじゃないですよー。もう二歳ですから。ねー、マユ?にちゃいでちゅーは?」
「あねとーね。」
ケンジは呆然と子供を見つめていたが、いやいやいや、と正気を取り戻した。
「この子と、あなたと、二人で来たの?」
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