運転代行はじめました。

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「十メートルほど走ったら、とりあえずパーキングへ入れて、」 「はい、入れて。」 「そして、私たちの車に私だけ歩いて戻ります。」 「はい。」 「私たちの車には、マユがいます。」 「はい。」 「マユは、おとなしく、賢く座っています。」 「はい。そのマユちゃんのくだり、いる?」 「で、その車を私が運転して、お客様の車を停めているパーキングまで来ます。」 「はい。」 「その後、また車を乗り換えてお客様の車を十メートルほど走らせて、パーキングに入れ、私の車まで戻って、お客様の車のところまで乗ってきて、という、交互に運転して、ちょっとずつ進むというのはどうでしょう?」  ケンジは両手をパーと広げて、プラトーンよろしく、天を仰ぐようにして嘆きの叫びを上げた。 「ろくでもない!ろくでもないよ~!」 「でも『四』ぐらいはあるんじゃないですか?」  女性は普通にニコニコしていた。  焦りの温度差がかなりある。  ケンジは余計に焦った。 「なに言ってんの!手間も時間もメチャメチャかかるじゃないですか!十メートルごとにパーキングに入れるとか・・・、あ、もしかして、それにかかるお金はもちろん?」  ケンジは答えを求めて、女性の顔を覗き込んだ。 「追加料金ということで。」  女性は笑顔で答えた。 「はい出たー。はらたいらさんに全部~。」  ケンジは見えないネームプレートを目の前に立てた。 「あちゃー。」 「だから!」  叫ぶケンジに一瞬微笑み返しして、彼女はまた、うーんと考え始めた。  ケンジは振り回され過ぎて、酔いがすっかり醒めてしまった。
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