18人が本棚に入れています
本棚に追加
「十メートルほど走ったら、とりあえずパーキングへ入れて、」
「はい、入れて。」
「そして、私たちの車に私だけ歩いて戻ります。」
「はい。」
「私たちの車には、マユがいます。」
「はい。」
「マユは、おとなしく、賢く座っています。」
「はい。そのマユちゃんのくだり、いる?」
「で、その車を私が運転して、お客様の車を停めているパーキングまで来ます。」
「はい。」
「その後、また車を乗り換えてお客様の車を十メートルほど走らせて、パーキングに入れ、私の車まで戻って、お客様の車のところまで乗ってきて、という、交互に運転して、ちょっとずつ進むというのはどうでしょう?」
ケンジは両手をパーと広げて、プラトーンよろしく、天を仰ぐようにして嘆きの叫びを上げた。
「ろくでもない!ろくでもないよ~!」
「でも『四』ぐらいはあるんじゃないですか?」
女性は普通にニコニコしていた。
焦りの温度差がかなりある。
ケンジは余計に焦った。
「なに言ってんの!手間も時間もメチャメチャかかるじゃないですか!十メートルごとにパーキングに入れるとか・・・、あ、もしかして、それにかかるお金はもちろん?」
ケンジは答えを求めて、女性の顔を覗き込んだ。
「追加料金ということで。」
女性は笑顔で答えた。
「はい出たー。はらたいらさんに全部~。」
ケンジは見えないネームプレートを目の前に立てた。
「あちゃー。」
「だから!」
叫ぶケンジに一瞬微笑み返しして、彼女はまた、うーんと考え始めた。
ケンジは振り回され過ぎて、酔いがすっかり醒めてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!