運転代行はじめました。

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「じゃあ、こうしましょう!」 「いや、もうどうもしない。どうせ、ダメダメ作戦なんだから。」  ケンジは腕を組んでそっぽを向いた。  それを見て彼女は、こら、そんな風にしたらダメなんだよ、と言わんばかりに横向いたケンジの顔に視線を合わせようと体を斜めに背伸びさせ近づいてきた。 「今度は大丈夫ですよ。牽引ですから。」  あまりにも彼女が近くに顔を寄せてくるのでケンジは一歩後退した。  彼女は眼をクリクリさせ自分のアイデアどうでしょうと言わんばかりに見つめてくる。  その期待にどう応えたらいいのだろう?  その前に何が大丈夫なのか、とケンジは首をかしげた。 「牽引って、あの?」 「ケイン=コスギじゃないですよ。」  ケンジは思いっきり肩を落としながらため息をついた。  しょうもない。  この俺がそんなしょうもないことを考えるとでも思っていたのか?  だとしたら見くびられたものだ、と。  そして、そんなダジャレを言う状況でもないでしょう、と。 「つまりね、私の車とお客様の車をつないで引っ張っていく訳ですね。どうです?いい作戦でしょう?」  ケンジは『遊んで!』とじゃれてくる犬のような彼女を、なだめるように右手のひらで『待て』のジェスチャーをして、少し下がって彼女との距離を取った。 「まあ、まあまあ、いいですよ。いいアイデアですよ。」 「イエーイ!」  せっかく距離を取ったのに彼女はまたも近づいてきて、ハイタッチを求めてきた。  ケンジはそれに軽く手を添えるようにして応えた。 「でもね、俺だんだんわかってきました。ちなみに、その車をつなぐワイヤーのようなものは?」 「持ってませーん!」  彼女は明るく言い放った。 「はい出たー。アタックチャーンス。」  ケンジは左手をグーにしてひじを曲げ振り下ろした。
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