小宇坂さん

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小宇坂さん

バスに乗って二時間。学生の僕からしたら少し遠目の場所にある向日葵畑。そこが、今日の目的地だ。 カードを当てて、ピッと音がしたのを確認してからステップに足をかけてバスに乗り込む。残金が少なかった気がするけど…まあ、片道分ぐらいはあるでしょ。帰りのは、どこかでチャージしていけばいいし。 バスの中は珍しく空いていた。朝早いからかな。窓際に座る会社員らしき人が、ぼんやりとした表情でスマホを弄っていた。その横を通り過ぎて、一番後ろの端っこに腰掛ける。 いつもは人気だから、なかなかここ座れないんだよね。あー…隅の方って、やっぱり落ち着くな。 僕は所謂コミュショーってやつで、人と話すのが得意じゃない。だからまあ、今日のこのバスの状況は正直ありがたかった。いつも通学のために使ってるけど、そのときはきゃっきゃっとはしゃぐ女子の声が五月蝿いし、そもそも席も埋まっていることが多いから立つしかなくて、ストレスは溜まる一方だった。今度からはもう少し早めのに乗ってもいいかもな、あんな思いをするぐらいなら……。 そんなことをグダグダ考えてる間にも、バスはどんどん景色を置いてけぼりにして進んで行った。煌びやかな都会のビル群が、少しずつ遠く離れていく。
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