小宇坂さん

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ふ、と水面から顔を出すときのような感覚。ぱちりと目を開けば、真っ先に視界に飛び込んできたのは眩しいほどの黄色だった。 思わず目を瞑って、何回か瞬きをして、やっとそれが向日葵畑なのだということがわかった。向日葵達は思い切り茎を伸ばして、美しく満開に花開いた花弁をすっかり高い位置にある太陽に向けて、堂々とそこに有った。 「…、すごい」 口に出せたのは、それだけだった。 圧巻。感動の嵐が心の中に吹き荒れて、目じりにじわりと涙が滲んだ。慌てて擦って、また食い入るように向日葵畑を眺める。バスは変わりなく走り続けているというのに、向日葵畑が途切れる様子は無かった。ずっと、ずうっと、ただただそこに広がっていた。 ……そういえば、しっかりと向日葵を見るのはいつぶりだろう。記憶を辿ってみても、それらしき記憶は出てこない。 ううん、僕はかなり外のことに興味が無かったようだ。これを機に、もう少し興味を持つようにしようかな。例えば、朝いつもテレビから流れてくるニュースを、ちゃんと見るようにするとか。 いつになったら止まるのだろうというぐらいに向日葵畑の横を走り続けて、ようやくバスは停車した。リュックにイヤホンを仕舞い、スマホはポケットに。 ありがとうございました、と運転手に小さな声でお礼を言って、僕は目を細めながらバスを降りた。
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